【 #ゲンロン友の声|032】子どもが死を恐れています

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webゲンロン 2023年12月25日配信

5歳の息子が自分が老いて死んでいくことを恐れています。どのようにアドバイスすればよいでしょうか。

息子はここ1年位の間に、父母、祖母祖父、皆が何れ老いて死を迎えることに気が付いてしまいました。ウクライナ紛争が始まった頃からなので、それがきっかけになっているのかもしれません。しばらくパパ、ママが老いていくことを恐れていましたが、その後恐れを口にすることは無くなりました。が、パレスチナ紛争が影響しているのか、今度は自分の死が怖いと口にするようになりました。出来るだけ、紛争関係のニュースは見せないようにしているのですが、幼心にも感じるものがあるようです。

私は、野菜をたくさん食べてアンチエイジングすれば大丈夫だよ、と彼に言ったのですが、自分でもそういうことじゃないよね、と思いながらのアドバイスしか出来ませんでした。

東さんならどのように対応しますか。(東京都・30代・女性・会員)

 ご質問、ありがとうございます。なんかむかし似たような質問に答えたことがあったな……と思って検索したら、2年半ほどまえのこれが引っかかりました。そちらでは質問者のお子さんは「生きることの不思議」について問いかけているのですが、今回の「死が怖い」の裏返しの疑問のように思います。

 さて、そのときぼくは当時15歳の娘にアドバイスを求めていたようです。というわけで、今回も18歳になった娘に尋ねてみました。子どもに死ぬのが怖いと言われたらどう答える?と。娘いわく、第一にまず自分が死ぬのはけっこう先なので忘れておけ、第二にどうせ死ぬのは避けられない、だから死んだときに後悔しないのが大事、大事なのは結果でなくて過程、ママが死ぬのが怖いならいまのうちに抱きしめておけ、だそうです。いつもながらの弊娘クオリティ……。

 まあ、しかし実際のところ、ぼく自身もそのような答えしか返すことができないように思います。死は怖い。それはそうです。しかしなぜ死を怖いと思えるかといえば、それは生きているからです。この世に生を受けていなければ、そもそも死が怖いと感じることすらできない(ぼくが反出生主義にあまり惹かれないのは、この点で哲学的に一貫できないように思われるからです)。裏返せば、死を怖いと思えるということは、いま息子さんが生を楽しんでいることを意味している。大事なのは、その「いまを楽しんでいる」という事実であり、それを精一杯続けることしか人間にはできない。死は怖いけれど、死を怖れるあまりに生を楽しめなくなったらさらによくない。息子さんにはそのように伝え、いま生きていることの豊かさに目を向けるように話を誘導するのがよいように思います。

 それはそれとして、息子さんが死を意識するきっかけになったのが、最近の戦争報道ではないかとのこと。お母さまにとっては心のケアが心配になる話かもしれませんが、ぼくはむしろ、息子さんの早熟さを示すものだとも思いました。おそらく息子さんは息子さんなりに、安穏と毎日を生きている自分と、戦場で生きなければならない人々のちがいにうっすらと気がついているのではないか。もしそうだとすれば、それはとても大事な気づきなので、決してごまかすことなく、しっかりと受け止めてあげるのがよいように思います。

 この世界には、不条理に生を断ち切られるひとが数多くいる。息子さんがなぜそうでないかといえば、それは運としかいいようがなく、理由などない。けれども、理由がないからこそ、息子さんやお母さまがいま生きていることはとても貴重で大事なのです。(東浩紀)

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。

1 コメント

  • nankai4go2024/01/04 14:54

    自分の家族の話なのですが、うちの弊娘も質問者さんの息子さんと同じ5歳で、最近「おかあさんとおとうさんが先に死んじゃうから、生まれてこなければよかった」と言うようになりました。質問者さんの息子さんのように、自分の死が怖いというわけではないのですが、5歳くらいから死を意識するようになるのでしょうか・・?そんな娘に対しては「生まれてこなければ、おかあさんやおとうさんに会えなかったじゃない?死んでしまったら、天国から応援してるよ」と返しました。それに対して娘は「そうだね、他にも〇〇にも、〇☓にも会えなかったしね」と納得がいった(?)ようだったので安心しています。私自身は天国とかは信じていないのですが、あえてフィクションであってもそのように返すことで、相手が安心して自分の生を肯定できればそれでもいいのかなと、やりとりを通して思いました。

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