コロナ禍は社会をどう変えたのか? 緊急事態宣言下に考える情報発信──メディア戦略から政治を読む #4 西田亮介+辻田真佐憲|ゲンロン編集部

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ゲンロンα 2020年5月1日配信

 4月27日、2人がゲンロンカフェに帰ってきた。西田亮介氏と辻田真佐憲氏による対談「メディア戦略から政治を読む」シリーズ第4弾は、新型コロナウイルス感染拡大が続くいま、政権や地方自治体がどのような対策を講じてきたのか、また各種メディアを通してどのような情報発信を行なってきたのかを論じた。  自粛要請、緊急事態宣言、布マスク、改憲、一律10万円の給付金など、コロナ禍においていま、様々な問題が噴出している。世間に活発な議論が巻き起こるなか、西田と辻田の鋭い批判を通して、非常事態における政治の役割を考える。  なお、この対談の模様はVimeoにて全篇が先行公開中(購入のみ)なので、以下のイベントレポートの内容に関心を持たれた方はこちらのリンクから5時間を超える議論の全容をぜひお楽しみいただきたい。(編集部)
 

 

ニュースから読み解けるもの


 まずは辻田のスライドをもとに、前回(2019年10月)のイベント後に起きた、すなわち2019年11月から2020年4月にかけてのニュースを読み解いていった。コロナ禍における「事案」のなかには、たんなる差別であるものも多いという辻田。確かに、昨今世間を騒がせる抗議電話や、夜営業の店舗への営業自粛要請など、攻撃しやすい弱い立場の人々への圧力が強まっている。辻田は日本の市民社会は未発達であると指摘し、同調圧力による人権侵害が起こっている状況に強い懸念を示した。  また、この非常事態が5月6日で終わるとはとうてい思えないいま、ふだんから親しんでいた文化が街から消え失せてしまうことへの危機感も示した。飲食店など、たとえその店舗が生き残ったとしても、サプライチェーンがなくなってしまったとしたら、決してもとには戻らない。今後、そうした不可逆的な変化にどう対応していくべきかが問われることになる。  自民党政権のメディア戦略のまずさにも苦言を呈した両名。テレビで流れる首相会見の様子は、安倍首相みずからが考えた意見を発表しているとは言い難い。次の時代のリーダーに必須なのは、政策についてきちんと理解し、人々へわかりやすく説明できるリーダーであろうと西田はいう。
 

政策について


 短い休憩ののち、議論は補償政策に移った。よく比較される世界と日本の給付金政策だが、西田は一律給付はポピュリスティックな方策であり、両国の国情はまったく違うとして一刀両断。国が国民の口座を把握しておらず、補正予算も未成立な以上、迅速な経済的措置は不可能だと述べた。  西田は、給付措置として無制限な私企業への公金投資を助長する世論を疑問視する。元々、日本の支援策は欧米と比べてそれなりに充実しており上乗せで支援を受けられるにもかかわらず、コロナ対策だけに集中して論ぜられる偏りの危険性を示唆した。しかし、国が支援策をまとめていないせいで、メディアが総合的に報道できず、情報格差が生まれている。  また、こうした支援策を講じるうえで、財源の確保は公務員の給与カットはそぐわないとした。のみならず、われわれ個人にも特別復興支援税のようなかたちで跳ね返ってくるだろうと指摘した。常識的にはMMT も十分に信頼できるものではないという。  地方行政に話が移ると、辻田は、どこもポピュリズムに右往左往している状況だと批判した。西田は、本来であれば地方ごとに、感染状況や土地柄にあった対策を取るべきであったと主張する。その観点では、北海道や東京都の独自の動きは評価できる。
 

緊急事態下の思考


 続いて、ふたたび話題は国政へ。2人はともに、緊急事態宣言下での憲法改正には反対だという。歌舞伎町における警察の声掛け事案からもわかるとおり、非常事態ではふだん行われないような権力の濫用が起こる。こうした圧力的な行為が頻発する状況で、冷静な議論は不可能である。  質疑応答では多くの質問が寄せられた。大学教育について、自身も教鞭をとる西田は、就職活動が壊滅的である現状に強い危機感を示した。いまは会社の人事部も出社していないし、コロナによって多くの会社が経営悪化に陥ることは必至だ。来年の採用はないかもしれない。また、博士課程の学生にとって、研究施設や図書館が閉鎖されている状況は致命的だ。今後、学生への支援は重要な論点になっていくだろう。  対談中、西田、辻田両名が政治を読み解くスタンスの違いが議論に上がった。西田はある事象が発生するメカニズムについて、辻田はその事象そのものについて興味が向くのだという。この姿勢の違いが、この対談シリーズの魅力につながっているのかもしれない。  最後に西田から、人が集まる場が閉ざされているいまだからこそ、営業を再開できる日までゲンロンカフェを残していこうという強い宣言がなされ、6時間にわたる番組が閉じられた。このレポートはごく一部をまとめたにすぎない。全体像はぜひ、動画で確認してほしい。(清水香央理)
 
 コロナ禍は社会をどう変えたのか? 緊急事態宣言下に考える情報発信──メディア戦略から政治を読む #4 西田亮介 × 辻田真佐憲 (番組URL=https://genron-cafe.jp/event/20200427/
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