現代にこそ、「友愛」が必要だ 〜鳩山友紀夫×茂木健一郎+東浩紀「モギケンカフェ#1 友愛とはなにか」イベントレポート

ゲンロンα 2020年9月2日配信

 2020年8月27日、ゲンロンカフェは緊張感に包まれていた。
 この日は、脳科学者である茂木健一郎がホストを務める「モギケンカフェ」の第1回目が行われる日。記念すべき初回のゲストは、元内閣総理大臣の鳩山友紀夫。しかもそれは、安倍総理大臣が辞任表明をする前日。
 トークのタイトルは「友愛とはなにか――アメリカと中国のあいだ、保守とリベラルのあいだで」。鳩山の政治信条である「友愛」という言葉をキーワードに、自身の政治観をざっくばらんに語っていただいた。
 茂木とは旧知の仲だという鳩山だが、一体どのようなトークになるのか、その方向性は全く謎に包まれたまま、トークは幕を開けた。(ゲンロン編集部)


「友愛」とはなにか


 緊張感に包まれていた会場だったが、いざトークが始まってみると、茂木の軽快な質問と鳩山のユニークな語り口に乗せられて会場は笑いに溢れ、非常にリラックスしたイベントとなった。鳩山は冗談も交えながら、「友愛」のビジョンについて茂木の質問に答えていく。

 友愛という言葉は、鳩山の祖父で、自由民主党の創設にも関わった元内閣総理大臣、鳩山一郎が唱えた言葉。その言葉は、鳩山家に代々受け継がれるDNAのようなものでもある。

 

 鳩山が首相在職中に取り組んだ「東アジア共同体」構想では、友愛の精神に基づき、それぞれの国が他国に忖度することなく、いつでも声を上げることができる場所を目指したという。形だけの共同体ではなく、ほんとうの意味で、様々な国家や民族がフラットに話し合えるような、そのような場所。形だけの共同体では、結局は現行のありかたがそのまま共同体の力関係に反映されてしまう。政治家が目指す未来は、それとは異なる、新しい社会の姿でなければない、と鳩山は強調する。

 笑いを交えながら語る鳩山。しかし、笑いとは裏腹に、その言葉には現在の信念の強さが垣間見えていた。イベントの鳩山は、私が今まで見たどんな姿よりもリラックスし、“ホンネ”で話していた。鳩山と同じ「フラットな場」を目指しているゲンロンカフェだからこそ、聞き出せた本音だったのかもしれない。

 

「友愛」の難しさ


 トークは、真面目な政治の話から、鳩山のここでしか聞けないようなプライベートな話へとさまざまに展開した。中でも、文京区音羽にあって代々鳩山家に受け継がれている「鳩山会館」の話題や、名だたる政治家との知られざるエピソードなど、ここでしか聞けないエピソードも満載。筆者が特に面白く聴いたのが、元総理大臣である中曽根康弘とのエピソード。かつて中曽根は鳩山に「君の『友愛』はソフトクリーム」だ、と言ったという。鳩山がその意味を尋ねると、「夏になると甘くて溶けてしまう」と返答したらしい。

 このエピソードが象徴するように、鳩山の「友愛」については、理想的すぎる、とか、現実が見えていない、という批判の声もよく上がる。筆者自身、そのような批判はさまざまなメディアで目にした記憶がある。鳩山は、首相経験者だからこそ思い知らされた課題を、赤裸々に、ときに冗談も交えながら語っていく。しかし、そのような経験をしても、「友愛」のビジョンは変わらない。

 中曽根とのエピソードには後日談がある。後に中曽根は、「君の『友愛』をソフトクリームだと言ったが、間違っていた。実はアイスキャンディーだ」と鳩山に言ったという。またもや真意を尋ねると、「溶けてしまうかもしれないが、芯がある」と答えたという。鳩山の信念が中曽根にも響いたということだろうか。鳩山は笑いながら、中曽根は続けて「でも、その芯は細い」と言ったのだと付け加える。

 中曽根のユーモアも、それを語る鳩山のユーモアも、私にとっては全てが意外だった。

 

諦めにあらがう


 後半からは東浩紀も飛び入りで登壇し、鳩山に質問を投げかけた。

 東は、現在のTwitterでのハッシュタグ運動にも触れつつ、現在の政治が「友愛」のような強いビジョンを持たず、「反安倍」というスローガンだけが存在することを指摘する。

 鳩山はこれに対し、野党がなすべきことは選挙対策のために集合離散を繰り返すことではなく、現在とは異なるビジョンを提示することだと答えた。

 一方で、最近の調査で若者の7割が現状に満足しているという結果にも触れながら、現在、ビジョンを持ち続けることの難しさも認めた。筆者の世代は中高生の頃から安倍政権下で、日本の政治は安定していると思いこんでいるところがある。そんな世代にとってはなんとも身につまされる話だ。

 その満足は、実は深い部分における「諦め」なのではないか。その雰囲気をどうすべきか――続けて問いかける東に対し、鳩山は、そのためには「政治に関する教育」こそが必要だと主張する。それは決して特定の政治思想を生徒に教えるものではない。かといって、ただ「選挙に行けばいい」と表面的に政治を教えるものではなく、「どうして選挙に行く必要があるのか」と根底の部分について常に考え続ける人びとを育てねばならないのだ。鳩山政権の改革に反対したメディアや官僚に対する、強い抗議の意のようにも感じられる。

 

現代にこそ、友愛が必要だ


 トークの最後は、友愛思想の核心にまで話が及んだ。

 茂木が近年の野党が友愛とは程遠いセクト主義に傾いているのはなぜかと問いかけると、鳩山は、野党の政治家は残念ながら、自分が前に出ることを考えてしまう人が多く、友愛の思想から離れてしまうのだと述べた。対して、自分自身はむしろ保守的な思想も持っていると述べ、「保守とは自分が完全ではないことを知っている人」という言葉を引いた。

 自分が不完全であるからこそ、歴史も含めた他者と共同する必要がある。だからこその友愛であり、それこそが現在の政治に足りていない。友愛とは「共和」の精神でもある。ここに、鳩山自身の友愛観、そして政治観が強く現れている。

 3時間にわたる対談を聞くなかで、「友愛は理想論だ」と言い切ってそれを諦め、目先のRT数や選挙にだけ目を取られてしまう態度こそ、日本を蝕んでいるものではないかと思えてきた。筆者の世代は、鳩山の友愛思想を聞いても、「現実感がない」として気にかけなかった。しかしこの「諦め」にあらがい、新しい社会を構想することこそ必要で、またそれが歴史を引き継ぐということなのである。そういえば、友愛という単語そのものもまた、鳩山一郎という歴史から受け継がれたものである。

 筆者は、鳩山が総理大臣だった頃をよく覚えていない。もしかしたら、その後に始めたSNSと、それに伴った「諦め」の蔓延が、それを私の記憶のなかで薄めてしまったのかもしれない。しかし、それでは問題があるのだということを、鳩山の言葉から気付かされた。「今、日本に一番欠けているものは”友愛”だ」という鳩山の言葉が、印象に残った。


 以上の他にも、首相としての生活や野球との関係など、ここでしか聞けない鳩山の素顔、そしてその人柄が存分に発揮されるイベントとなった。

 鳩山が舞台上を去った後、茂木と東による振り返りも行われた。緊張のせいか、すっかり酔っぱらった茂木が、次回以降の「モギケンカフェ」のゲストを提案する場面も見られた。

 記念すべきシリーズ第1回は、メディアのイメージとはまったく違う、素顔の鳩山を徹底解剖する非常に興味深いイベントとなった。ぜひ動画で確認してみて欲しい。(谷頭和希)


 ゲンロン中継チャンネルでは、番組をタイムシフト公開中(9月4日まで)。都度課金1000円で、期間中は何度でも視聴できます。

鳩山友紀夫×茂木健一郎+東浩紀「モギケンカフェ#1 友愛とはなにか――アメリカと中国のあいだ、保守とリベラルのあいだで」
番組URL= https://genron-cafe.jp/event/20200827/

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