【特集:コロナと演劇】宮城聰ロングインタビュー──東京芸術祭ワールドコンペティションにむけて(3) 演劇は「不要不急」か?|宮城聰

ゲンロンα 2020年10月16日配信

第1回
第2回
 いまだ収束の気配が見えないコロナ禍で、多くのライブエンターテイメントが中止や延期を余儀なくされている。そんななか、「東京芸術祭 2020」の開催が発表された。特集「コロナと演劇」では、東京芸術祭の総合ディレクターである宮城聰氏に全3回のインタビューを行い、コロナ時代に演劇を閉ざさず、開いていくためにはなにができるのか、その可能性をうかがっている。
 第1回は宮城氏と演劇の出会いから劇団ク・ナウカの立ち上げ、そして世界各地での公演までを追った。第2回はSPAC -静岡県舞台芸術センターの芸術総監督としての実践と、静岡の観客を意識することが、アヴィニョン演劇祭での『アンティゴネ』の演出にどうつながったのかをたどった。
 そして最終回となる第3回では、コロナ禍の現在における演劇の役割について考えることになった。「不要不急」が切り捨てられる社会で、演劇を、文化を、どう守るのか。「演劇がないと死んでしまうひとたち」、「オンラインからも疎外されたひとたち」の存在から、ニューヨークへ飛んだ『アンティゴネ』、そしていまこのときに東京で芸術祭を開催する意義まで、演劇がいかに「エッセンシャル」たるのかお話しいただいた。
 なお「コロナと演劇」では、宮城氏のインタビューに加え、2019年の東京芸術祭ワールドコンペティションに参加したチリ、中国、ニュージーランド、南アフリカ共和国の演劇人たちの寄稿全4本をお届けしている。こちらも合わせてお読みいただきたい。

 

コロナ禍で演劇をあきらめないために


 ──前回は宮城さんがク・ナウカの活動を休止し、原点に立ち返って「演劇からも疎外されてきたひとたち」に演劇を届けるため、静岡県にあるSPACの芸術総監督に就任された経緯をうかがいました。静岡で得た新しい観客たちとの出会いが『アンティゴネ』の独特の演出へとつながったこと、それがフランスの観客たちにアヴィニョン演劇祭の原点を思い出させ、ヨーロッパの演劇界に大きなインパクトを与えるにいたったというお話には、強く感銘を受けました。

 2020年、コロナの感染拡大が広がるなかで、5月に開催を控えていた「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の中止を決定されました。この演劇祭は、急遽「くものうえ⇅せかい演劇祭」と名前を変えて、オンラインで開催されることになります。日本国内で、コロナ禍に対して演劇はどうありうるかという問題に、早い段階で応答し、また明確なスタンスを示した芸術祭だったと思います。このときどのようなことを考えていたのか、お聞かせいただけますか。

宮城聰 このとき、ふたつの異なる次元で思ったことがありました。ひとつはとても現実的なことです。3月下旬ごろに「不要不急」という言葉が流行ったとき、世の中の多くのひとが、劇場はその代表的なものだと考えました。たとえば演劇人が「劇場を閉じていいのか」と声を挙げても「劇場が閉まってもだれも死なないが、コロナではひとが死ぬ」と言われてしまう。そして圧倒的多数のひとが、そうした声に賛同しました。

 演劇人はもちろんのこと、多くのジャンルの表現者たちが、この事実を突きつけられた。そのときにぼくが思ったのは「自分たちの活動は社会インフラで、大事なんです」という言い方では、この圧倒的多数のひとには届かないということでした。

 ──ひとの命が問題になっているときに、「社会にとって重要」という抽象的な言い方で文化を擁護するのはむずかしいですよね。

 じゃあなにを言えばいいのかと考えてみて、主張すべきは「数は少ないけれど、『演劇がないと死んでしまうひと』が存在する」ということだと思いました。多くのひとにとっては身近ではないかもしれないけれど、演劇という心の水、それがないと精神が枯れちゃうひとたちが実際にいることを、ぼくたち劇場の人間は知っています。

 そして多くのひとは、そういう存在がいることがわかりさえすれば「そいつらは死んでもいいよ」とはさすがに言わないだろうと考えました。「あ、そういうひとたちもいるのか。じゃあそのひとたちのことも考えなきゃいけないな」と思うくらいの度量はあるだろうと。

 そうなると問題は、いかにして「演劇や劇場がないと死んでしまうひとがいる」ことを表現できるのか、です。しかも劇場での公演ができない状況で。そういった道筋で『くものうえ⇅せかい演劇祭』のプログラムを組んでいきました。

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1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京芸術祭総合ディレクター。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、1990年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、またアウトリーチにも力を注ぎ「世界を見る窓」としての劇場運営をおこなっている。2017年『アンティゴネ』をフランス・アヴィニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。2006〜2017年APAFアジア舞台芸術祭(現アジア舞台芸術人材育成部門)プロデューサー。2019年東アジア文化都市2019豊島舞台芸術部門総合ディレクター。2004年第3回朝日舞台芸術賞受賞。2005年第2回アサヒビール芸術賞受賞。2018年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2019年4月フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。写真=Takashi Kato

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