哲学者による社会運動としての動画配信プラットフォーム ――さやわか×辻田真佐憲×東浩紀「シラスの未来、配信の未来、データの未来」イベントレポート

ゲンロンα 2020年10月27日配信

東の緊張


「私はいま、かつてなく緊張しております」

 東浩紀の言葉からイベントは始まった。

 2020年10月19日。株式会社ゲンロンが開発協力し、合同会社シラスによって運営される新しい動画配信プラットフォーム「シラス」(https://shirasu.io/)がオープンした。壇上には東の他に、11月下旬からシラスでチャンネルを開設予定のさやわかと辻田真佐憲が登壇。シラスとは何か、シラスはどのような理念に支えられているのか、東が動画配信プラットフォームを作ることを構想した過去の経緯などが大いに語られた。

 イベントは19時から21時までがニコニコ生放送で無料放送されたあと、21時からシラス初の有料放送に移行して続けられる構成。もしもシラスの放送が、システムの不具合や不測の事態によって行えなくなった場合は、この日は手痛い失敗として記憶されていただろう。東の緊張ももっともだ。前半のニコニコ生放送での番組中、東は普段のイベントの軽快なトークや物腰とはちがい、終始落ち着きのない様子だった。

 

シラスが提示するふたつの解決


 まずは東から、シラスのインタフェースを解説しながら、ニコ生との違いに触れていく。コメントはすべて固定ハンドルネームとともに表示されること、アーカイブ視聴でもコメントが打てるようになること、番組購入者が資料などをダウンロードできる機能があること、サイト内の言語表記を日本語と英語で選択できることなど、特徴的な機能が解説された。

 つぐにシラスの理念についてプレゼン。なぜ哲学者であり物書きである東が動画配信プラットフォームを立ち上げたのか。その理由には、現代インターネットに対する問題意識が色濃く表れていた。

 

 東は現代のネットが抱える問題をふたつにまとめている。ひとつは「数だけが目標になっている」こと。もうひとつは「友と敵の分断が深まっている」ことだ。このふたつがインターネットの可能性を阻害しているとして、シラスではその解決案を具体的に示すと東は語った。

「数だけが目標になっている」という問題に対しては、番組をすべて有料放送にするという解決を挙げた。インターネットにおける多くの無料サービスや無料コンテンツは、ユーザから利用料を徴収せず、広告によって利益を上げている。これによってインターネットユーザは、無料でサービスを享受しているように見えて、その実、広告業界や資本家に支配されている。だから東は、有料コンテンツのプラットフォームを作ることで、コンテンツを配信する側と視聴する側の両者が、広告や資本の奴隷にならない構造を実装したという。さやわかはこの話を受けて「90年代のインターネットがうまくいっていたのは、ユーザがみな従量制課金でネットに接続していたからだった」と語った。支払先がインフラかコンテンツ提供者かという違いがあるにせよ、「使った分だけお金を払う」という構造が、ユーザーの意識を変える。

 ふたつめの「友と敵の分断が深まっている」問題への解決としては、東は単独購入可能番組を充実させる制度設計を挙げた。シラスには、著書『ゲンロン0 観光客の哲学』で展開した「村人/観光客/旅人」の三層構造の理論を踏まえ、チャンネル会員(視聴者)と非会員(非視聴者)の間に「ときどき視聴する人(観光客)」がいるという三層的な考え方を導入している。オンラインサロンのように会員を抱え込むだけではなく、単独購入者を増やすことがメリットにつながるような制度設計がなされている。単独購入者という観客が自然に増え、配信者が観客を意識せざるをえない構造によって、単純な友と敵の分断が起こりにくくなると東は語った。

 

 東はシラスについて「簡単に放送をやりたいなら、YouTubeやニコ生のほうがいい。シラスはそういう意味では「便利」ではない。利益を優先しないという理念があるので、それを理解するひとに集まってほしい」と語った。便利で無料なサービスが世の中にあふれたことで、フリーライドする人が増えてしまい、そのことが社会を悪くしている。それが現代の大きな問題なのだと東は述べた。

辻田とさやわかのチャンネル解説


 番組ではシラスで始まる予定の辻田、さやわか両氏のチャンネルについても説明がされた。

「辻田真佐憲の国威発揚ウォッチチャンネル」については、豊富な政治ネタ、時事ネタ、歴史ネタを中心にした番組つくりが構想されていることが解説された。辻田はこのチャンネルで、専門知と社会をつなぐ全体知を提供する一方、サブカル番組として深夜ラジオ的な楽しさを実現したいという。

「さやわかのカルチャーお白洲」は、日々膨大なコンテンツに触れる「異常接種者」が送る文化批評番組。主な内容として、「カルチャーを位置づけ見取り図をつくる」、「さやわか自身が書いたことや考えていることを語る」、「視聴者からの作品の投稿を受け付ける」という3つの方向性が示された。現在のカルチャー論への直截な疑義とともに、そのような状況を変える力をもった人を増やしたいという番組の理念があるという。

 

ニコ生からシラスへ


 ニコ生の放送終了直前には、シラスの開発に中心的に携わった桂大介と、ゲンロン代表の上田洋子も登壇。いよいよシラス初の公開生放送が近づいた。祝いのしらす寿司が壇上に運ばれるなど、壇上はシラス移行を前にバタバタと浮足立った。

 21時。壇上の5人によるカウントダウンが行われ、ついにシラスの生放送が始まった!

 

 壇上の5人が見守るなか、シラスの放送は表面上は無事に始まり、コメント欄には放送成功を祝うメッセージが勢いよく流れ始めた。ところが、ユーザのアクセスが集中したためか、視聴者からは「動画が見えない」「動画がすぐに止まってしまう」というコメントが多数寄せられ始めた。壇上に来たばかりの桂は障害対応のために席を離れ、残った4人によるトークがしばらく展開された。

 放送開始から2時間半程経過した頃、桂と開発チームの尽力によってついに不具合が解消! 「(動画が)止まらなくなった」というコメントが続き、会場の関係者から拍手が沸き起こった。安定した動画視聴が実現したことによって、登壇者と視聴者の間にシラス初放送の実感が共有された瞬間だった。

 

 放送はそこからさらに続き、日付をまたぎ午前4時頃に終わった。東からは、動画配信プラットフォーム計画を考え始めるきっかけとなった「はてな論壇」や「ニコ論壇」についての振り返り、インターネットの本来のポテンシャルについての分析、資本主義とそのオルタナティブについての展望など、シラスの理念を中心に様々な議論が展開された。9時間に及ぶ番組のなかで、東は不安と緊張と安堵と喜びの感情を何度も行き来していた。そうした東の姿や、「ぼくたちはいま、歴史のエッジにいますよ」という言葉からは、シラスに懸けた理念と苦労がどれほどの大きさだったかが窺えた。

 東は、シラスは100年後、社会運動として位置づけられているのではないかと語った。大きなビジョンが示されたイベントを、読者の方にも是非視聴して頂きたい。(遠野よあけ)


前編はYouTubeで無料公開しています。後編はシラスでアーカイブ公開中(半年間/税込550円)。放送途中からの有料延長分についてはチャンネル会員(月額税込6600円)は無料で、それ以外の方は追加の課金で単独購入できます。

さやわか×辻田真佐憲×東浩紀「シラスの未来、配信の未来、データの未来」
ゲンロンカフェサイトURL=https://genron-cafe.jp/event/20201019/
ニコニコ動画番組(前半)URL=https://live.nicovideo.jp/watch/lv328521166
シラス番組(後半)URL=https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20201019
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1984年生まれ。批評再生塾1期3期卒業生。SF創作講座4期卒業生。ひらめき☆マンガ教室3期聴講生。批評誌『クライテリア』編集長。

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