各地を演劇化する巡礼の旅 やなぎみわ×上田洋子「なぜ私は巨大トレーラーを所有しているのか」イベントレポ―ト(関西弁)

ゲンロンα 2021年1月23日配信
 1月14日、美術作家のやなぎみわさんを招いたトークイベントがゲンロンカフェで行われたで。
 やなぎさんは、1990年代から活躍してる関西出身の作家さん。たくさんの賞をとってて、海外での評価も高い。独特の世界観をもつ写真作品でも有名なんやけど、近年は演劇作品にも力を入れて取り組んではる。なかでも、ステージトレーラーを使って各地で行なってる野外巡礼劇『日輪の翼』(原案:中上健次)は、現在進行形の強烈なプロジェクトや。
「ステージトレーラー」も「野外巡礼劇」も、ぱっと聞いただけではなんのこっちゃと思うかもしれん。そこのところも含めて、ゲンロン代表の上田洋子が対談相手となってがっつり掘り下げたから、その模様をお届けするで。(ゲンロン編集部関西弁担当)

 

台湾から巨大ステージトレーラーを輸入

 まずは、ステージトレーラーってなんなんやって話やな。

 やなぎさんは2010年ごろに演劇に取り組みはじめたときから、最終的には野外劇をやるのが夢やったらしい。日本で野外劇いうたらテント立ててやるアングラ演劇のイメージが強いけど、そこでやなぎさんが使うのが、台湾から輸入したステージトレーラーや。かんたんに言うたら、トラックの壁とか天井がぐぐぐっと開いて派手なステージになるっていう特殊車両やな。上のダイジェスト動画の冒頭を見てもろたらイメージつかんでもらえるんちゃうかと思う。

 こういうステージトレーラーは、台湾では何百台も走ってるポピュラーなものらしい。お祭りとか結婚式のときに出動して、この上でカラオケしたりポールダンスしたりするんやって。

 やなぎさんは2012年ごろからリサーチを重ね、2014年に自身のデザインでつくったステージトレーラー〈花鳥虹かちょうこう〉を台湾から輸入、ヨコハマトリエンナーレ2014でお披露目ということになった。製造、輸入からその後のメンテナンスに至るまで苦労は尽きひんらしくて、イベントではそういうお話もたっぷり聞けたで。

『日輪の翼』における「路地」の移動

 やなぎさんがそのステージトレーラーを使ってやってる野外劇が『日輪の翼』や。舞台では俳優だけやなくて、タップダンサー、サーカスパフォーマー、ポールダンサー、ギタリストや和楽アーティストが入り乱れての大スペクタクルが展開される。下の写真みたいなイメージや。

『日輪の翼』京都公演(東アジア文化都市2017 撮影:表恒匡)
 

 この野外劇の原案は中上健次の同名小説。中上健次といえば、「路地」と呼ばれる熊野の被差別部落を舞台とした一連のサーガを書いたことで知られる大作家や。『日輪の翼』はその「路地」からの脱出を描いた作品で、中上のキャリアの分岐点とも言われてる。

 あらすじは、「路地」からの立ち退きを迫られた7人の老婆が、同じく「路地」出身の若者らが運転する冷凍トレーラーに乗って流浪の旅に出るというもの。作中では、伊勢、諏訪、出羽、恐山、そして皇居へと巡礼が続く。道中で老婆らは神々との出会いに恍惚とし、若者たちは女漁りに奔走する。聖と俗がどろどろに入り混じった中上らしい話や。

 この小説のおもろいところは、トレーラーの旅が「路地」の移動として描かれてるところ。物語ではトレーラーがとまるたびに、そこで老婆たちが昔話を語り始めたり食べなれたおかゆを炊いたりして話が進んでいく。つまり、「路地」から脱出する旅の先々で、あたらしく「路地」が出現していくという仕掛けやな。これはほんまにアクロバティックで画期的な発想やとやなぎさんは言うてた。

 

土地とその歴史を演劇化する

 やなぎさんによる野外劇バージョンの『日輪の翼』は、これまでに横浜、新宮、高松、大阪、京都、神戸で公演が行われた。ある意味、各地に「路地」が出現するという仕掛けも含めて原作が再現されてると言えるかもしれん。そのうえでさらにおもろいのは、上演する土地ごとに脚本や演出まで変わっていくというところや。

 たとえば2019年に行われた直近の神戸公演は、鮮魚などを扱ってる神戸市中央卸売市場が会場となった。ここは魚市場やから、もちろん港にある。驚きなのは、舞台の一部と客席が、海から接岸した台船のうえに組まれたということ。これによって、会場が客席ごと揺れるというダイナミックな舞台装置が生まれたらしい。『日輪の翼』の各公演では、トレーラーやその他の装置の平衡を保つため、それぞれの会場ごとに足場のでこぼこ具合や硬さを測る「地面との対話」が欠かせへんらしいんやけど、この台船を使った演出はそのひとつの究極形なんちゃうかという気もする。

 さらに、やなぎさんは土地ごとの歴史も劇に組み込んでいく。神戸公演の会場は、「踊り念仏」で知られる一遍上人が遊行の旅の末に没したところの近くでもあった。せやから、やなぎさんは一遍上人についてリサーチして、劇のなかに登場させた。一遍上人の踊り念仏は、大衆と信心を分かちあうために行われたものや。やなぎさんいわく、各地をめぐるその旅は人気ロックバンドの興行みたいなもんやった。しかも、一遍上人率いる一団は各地で踊り念仏のためのステージである「踊り屋」を建てたらしくて、そんなところまで野外劇『日輪の翼』の世界とかぶってくる。

 神戸公演については、約20分のドキュメンタリーもつくられてる。これを見た上田さんは、このプロジェクトには郷土史研究みたいな側面もあると感じたらしい。やなぎさんも、地元のひとになにか残したいという気持ちでこのドキュメンタリーをつくったって言うてた。

 上田さんはさらに、やなぎさんの野外劇をより大きな文脈でとらえるためのプレゼンも行なった。バフチンのカーニバル論、中世イギリスの聖史劇、エイゼンシュテインの演劇論が、やなぎさんの実践と親近性をもつものとして紹介されてたわ。ここから視聴者の質問も挟んでふたりの演劇論が交わされたところも刺激的やったんやけど、詳しいことはイベント動画で確認してみてほしい。

 

 イベントは4時間を超える充実の内容で、話題は野外劇のことだけに収まらんかった。やなぎさんがリサーチした日本各地の老神信仰・女神信仰、野外劇と並行してつくってる写真作品、現在進行中の台湾オペラのプロジェクト、さらには南極ビエンナーレへの出品や「海洋土木演劇」への野望などが語られた。これもぜひイベント動画で見てや。

 進行中のものや今後の展望については、「どれも道のりが遠いもの」とやなぎさんは紹介してたけど、上田さんはそれこそがアートの姿勢やと言うてた。最初から実現のビジョンが見えてるものを手堅くやるんやない。できるかどうかはわからんけどやりたいものに着手してもうて、それをなんとか実現させてまうところにこそおもろいもんが生まれるということやな。

 大御所でありながらどんどん新しいチャレンジを続けるやなぎさんが、次はどんな世界を見せてくれるのか。演劇というその場かぎりの芸術に取り組んではるからこそ、その動向には常に注意を向けとかなあかんと感じたわ。(住本賢一)

 シラスでは、半年間アーカイブを公開中(税込990円)。ニコニコ生放送では、今後の再放送の機会をお待ちください。

 

やなぎみわ×上田洋子「なぜ私は巨大トレーラーを所有しているのか──現代美術から野外劇へ、そして巡礼へ」
(番組URL= https://genron-cafe.jp/event/20210114/

 

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