北海道を知れば、日本が見えてくる!? 「さやわか×武富健治×春木晶子 北海道を衝け――番外地はいつミルクランドになったのか」イベントレポート

ゲンロンα 2021年4月23日配信
 広大な大地に美しい自然、厳しい寒さの中でも強くたくましく生きる温かい人びと……。
 私たちは北海道にこんなイメージをもつ。でも、そのイメージはほんとうだろうか?
 内地(北海道以外の日本のこと)の人びとが想像する北海道とは異なる姿がそこにはあるのではないか。では、ほんとうの北海道の姿とは何か? そもそもほんとうの北海道なんてものはあるのか?
 3月29日、北海道のイメージに迫るイベントがゲンロンで開かれた。登壇したのは、それぞれ北海道にゆかりがある3人。江戸東京博物館の学芸員で、北海道博物館にも勤務歴を持つ春木晶子と、批評家のさやわか、そして漫画家の武富健治。
 知られざる北海道の姿に迫ったイベントの模様をお伝えする。(ゲンロン編集部)

 

北海道は「理想の土地」か?

 春木とさやわかは北海道で生まれ、青春時代を北海道で過ごしてきた。そんな二人は北海道をどう見ているのか。

 春木はゲンロンの「批評再生塾」で第4期の総代に選ばれている。その際の最終課題では、村上春樹の作品分析を行いながら北海道論を展開した。かつては暗く寂しい辺境と見なされていた北海道。しかし近年は人気の観光地という側面ばかりに光が当てられ、あたかも「理想の土地」のように扱われている。道民は近年の肯定的な評価を受け入れ、内地からのそうした視線を内面化する。無邪気ともいえるその姿勢に疑問を覚えてきたという。

 

 さやわかは春木の論考を評価しつつ、今や北海道名物として知られるジンギスカンや札幌味噌ラーメンが戦後に生まれたものだと指摘する。それは観光資源の「捏造」であり、伝統ではない。自然豊かで平和な大地<北海道>というイメージもまた、内地の人びとの欲望に応えるようにして作り上げられたものなのではないか。大学時代に上京し、北海道を相対化して見てきたさやわかはそう述べた。

 武富は北海道生まれではないが、小学校時代に内地から北海道へ転校してきた経験をもつ。3〜4年ほどの在住であったが、その後の人生に大きな影響を与えたという。移り住んだのは1980年代初頭で、その時点ではまだ現在のような北海道イメージは定着していなかった。1981年にテレビドラマ『北の国から』が始まってから、北海道のイメージが一変したという。

イメージを塗り替え続ける北海道

 イベントでは、武富が、北海道にまつわるさまざまな出来事や作品をジャンルごとに一つの表にまとめた表を提示した。シラスの番組を購入すると、特典としてこの表をダウンロードすることができる。

 1980年代以前の北海道は、『網走番外地』シリーズなどの映画の影響からか、流れ物が行きつく土地という負のイメージが強かったと武富はいう。

 

 春木は、人気ドラマ『半沢直樹』の最新作で、社員の左遷先として選ばれたのが「根室支店」であったことを挙げ、いまだ北海道がそのようにイメージされていると付け加える。

 さやわかは武富の「実在したレイプ村」(『狐筋の一族 武富健治実話作品集』所収)に触れ、負の北海道像を描き出した注目すべき短編という。作品では「レイプが日常」だという北海道のある地区が描かれる。虚構や誇張であったとしても、そのように北海道が描かれていたこと自体が興味深いという。

「番外地」的なイメージに変化が訪れるのが1972年の札幌オリンピックと、それにともなう60~70年代の観光ブームだ。1964年の東京オリンピックの輝かしい成功もあいまって、進歩的かつ、美しい自然を持つ北海道が喧伝された。『北の国から』で押し出された牧歌的な北海道イメージは、それに拍車をかけた。

 武富によれば、北海道では「番外地」的な負のイメージと牧歌的なイメージがせめぎあってきたという。そして、そのつどさまざまな人びとが北海道のイメージを書き換えようとしてきた。例えばそれは、『北の国から』の脚本を担当した倉本聰であり、「花畑牧場」の生キャラメルを売り出したタレントの田中義剛だ。

 もちろん、彼らは悪意をもってイメージを塗り替えているのではない。彼ら自身が思う「正しい」北海道像を人びとに伝えたいという素朴な思いがそうさせているのだ。そして道民は、そのようにして描き出されたイメージを従順に受け入れてきた。

北海道を知れば、日本が見えてくる?

 道民が持つ北海道像の素朴さは、近年でも話題に上がっている。

 春木は、白老に昨年開館した民族共生象徴空間「ウポポイ」に象徴されるように、「アイヌ」についても、いまイメージの塗り替えが行われていると指摘する。2015年にはかつての北海道開拓記念館が道立アイヌ民族文化研究センターと統合し、北海道博物館とニュートラルな名前に変えられた。開拓に伴う負の歴史が、アイヌとの平和な共生というイメージで塗り替えられつつあることを表している。

 さやわかは、道民自身がそのようなイメージの変遷を自覚し、北海道像を素朴に信じすぎないようにすべきだという。ゲンロンβの連載(「愛について──符合の現代文化論」)で、イメージを一義的な意味にだけ捉えない見方の重要性を提唱しているさやわか。その背景にはイメージを絶えず変え続ける北海道の存在もあると述べた。

 

 さやわかと春木が議論を重ねるうちに、道民は内地との関係性のなかで、求められるイメージを演じようとしてきたのではないかという論点が浮上した。北海道は内地があってこそ、固有のイメージを保つことができる。そこに北海道を読み解くカギがあるのではないか。

 武富はそれを、北海道こそ日本の雛形だというふうに展開した。内地とのかかわりでイメージを変えてきた北海道は、外国との関係によって国のイメージを変え続けてきた日本の縮図なのではないか。北海道について語ることは、日本全体について語ることであり、北海道を考えるとは日本を考えることなのではないか――。


 イベントではこのほかにも、北海道の食やカルチャーについての議論や、札幌とその他の都市の関係など、さまざまな話題が深堀りされた。北海道に興味がある人のみならず、広く地域社会や地域文化について考えたい人にもおすすめのイベントだ。

 武富は北海道に住んでいた頃のアルバムを持参し、それを見ながら北海道の思い出について語った。さらに、イベント終了後は辻田真佐憲と東浩紀を交えて関西と北海道を比較しながら語る延長戦も行われ、大いに盛り上がった。大阪出身の辻田と東京出身の東という内地の人びとから見た北海道像とはどのようなものなのか。こちらもシラスで見ることができるので、ぜひ視聴して欲しい。(谷頭和希)

 

 シラスでは、2021年9月26日までアーカイブを公開中。ニコニコ生放送では、再放送の機会をお待ちください。

さやわか×武富健治×春木晶子「北海道を衝け――番外地はいつミルクランドになったのか」
(番組URL=https://genron-cafe.jp/event/20210329/

 

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