DMZの「政治的風景」|黒瀬陽平

初出:2016年5月13日刊行『ゲンロンβ2』

 前号に掲載された東浩紀氏による韓国取材記「鉄原と福島の余白に」で紹介されたように、私たちは現在編集中の『ゲンロン3』のため、4月4日から8日まで韓国に滞在し、「リアルDMZプロジェクト」の取材をおこなった。今号は、「『ポスト』モダニズムのハードコア」は休載とし、『ゲンロン3』に掲載予定の拙稿から「リアルDMZプロジェクト」について言及している部分を転載し、私からの韓国取材記としたい。
 『ゲンロン3』に掲載予定の拙稿では、韓国の「リアルDMZプロジェクト」と福島の「Don’t Follow the Wind」を比較しながら、新たな美術史のヴィジョンを描くものになっているはずなので、ぜひそちらもご期待いただきたい。(黒瀬陽平)

 
 2012年7月28日、つまり朝鮮戦争休戦記念日の翌日から始まった「リアルDMZプロジェクト」は、東西248kmにわたる軍事境界線の中央に位置する鉄原チョルォン郡を舞台に、毎年開催されているアートプロジェクトだ。韓国現代美術界でもっとも重要なキュレーターのひとりであるキム・ソンジョンが芸術監督をつとめるこのプロジェクトは、毎年世界各国のアーティストを招聘する「国際展」であり、鉄原郡からは地元の観光産業の振興につながることを期待されている「地域アート」でもある。

 といっても、DMZに隣接する民間人統制区域内に広がる荒涼とした風景は、このプロジェクトが、昨今の日本でも乱立している「ビエンナーレ」や「トリエンナーレ」あるいは「芸術祭」といった「祝祭」とは全く異質なものであることをはっきりと伝えている。2016年4月、私は本誌編集部の韓国取材に同行して鉄原を訪れ、キム・ソンジョンの案内のもと、「リアルDMZプロジェクト」の会場となったエリアを視察した。会期中ではないため、過去の出展作品はほとんど見ることができなかったが、ライフルを持った軍人たちが待ち構えるゲートでパスポートを提示し、その先にある数々の軍事施設や、熾烈な地上戦の傷跡を生々しく残した戦場跡を見て回ることで、このアートプロジェクトがいかに特異なものであるかを知ることになった。
 

鉄原郡の風景。荒涼とした土地に農地が広がる

 
 その特異さとはまず、韓国と北朝鮮はいまだ「休戦中」であり、このDMZ接境地域はさながら「戦時下」のような様々な規制のもと、人々が暮らす場所であるということだ。そこは政治的な場所であるどころか、まさに「戦場」であり「前線」なのであって、万全な状態でアートを制作したり鑑賞したりする環境とは程遠い。そして、もしここで作品を発表するのなら、いかなるアーティストであっても、この圧倒的に明瞭かつ強烈な場所性が作品内容に直接介入してくることを防ぐことはできないだろう。もし戦争が再開されれば真っ先に作品が危険にさらされるだろうということも含め、このような強すぎるサイト・スペシフィックは、アートにとって過酷な環境であることはまちがいない。

 しかし一方で、休戦中の緩衝地帯として設けられたこのエリアは、再び戦争が始まらない限り、広大な土地が使うあてもなく遊び、放置されている場所でもある。このプロジェクトを鉄原郡が後援し、住民からもおおむね好意的に受け止められているのは、普通の町おこしや土地開発が不可能なこの場所において、アートプロジェクトが数少ない活用方法であるからにほかならない。その意味でここは、その環境の特殊さ故にアートが求められている場所でもあるのだ。
 

鉄原平和展望台へ向かうモノレールの駅。戦車の展示も


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