日常の政治と非日常の政治(4) 18歳の投票率から振り返る政治教育の課題|西田亮介

初出:2016年08月12日刊行『ゲンロンβ5』
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 2016年7月は選挙が続きました。参院選と東京都知事選です。今回は参院選の結果、とくに若年世代の投票率を参照しながら、改めて政治教育の実態と重要性に目を向けてみたいと思います。

 今回の参院選ではこれまで一度も行われたことがない憲法改正の発議に必要な議席数(衆院、参院、それぞれの3分の2以上)に改憲勢力の議席数が達するか否かという極めて重要な、潜在的な争点がありました。結果はご承知のとおりで、改憲勢力の議席数が衆参両院で3分の2を超えました。この結果については、憲法改正の是非が争点であると考えた有権者が少なかったのではという分析もあり、憲法改正に肯定的な与党の視点からすれば争点化させないことに成功しましたが、憲法改正を阻止したい野党視点では争点化に失敗したといえます。参院選の投票率は54.7%、過去4番目に低い数字でした。野党共闘は一定の成果をあげたということもいわれますが、自民党政権への再度の政権交代が行われた直後の2013年の参院選と、現在の雰囲気の違いを考慮すると、成果の実情は少々割り引いて考えなくてはならないでしょう。

若年世代の投票率をどう見るか

 そのような背景をふまえたうえで、改めて若年世代の投票率を見てみましょう。今回の参院選で適用された投票年齢の満18歳以上への引き下げ、いわゆる「18歳選挙権」世代の投票率はどうだったのでしょうか。これらの世代の投票率は、18歳が51.17%、19歳で39.66%でした。一見、これまで日本の投票率について指摘されてきた傾向と同様に、年長世代と比べて低調に思える数字です。ただし18歳については若干高い数字だったといってよいようにも思われます。というのも、近年の国政選挙の20歳代投票率の推移に注目してみると、平成の時代になってから、今年の18歳の投票率の数字を上回っているのは、平成2年(1990年)の第39回衆議院議員総選挙において20歳代の投票率が57.76%を記録したときだけだからです。

 詳細な理由と原因については今後、より厳密に検討がなされるべきですが、さしあたりここではふたつの仮説を提示しておきましょう。ひとつ目はメディアによる「18歳選挙権」の周知によるものです。今回の参院選において、18歳選挙権は報道のひとつの柱となっていました。参院選において、議論の盛り上がりと政策論争に精細を欠くなかで、新規性をもった主題として、18歳選挙権は繰り返し言及されることになりました。みなさんも各メディアが数多くの企画を展開していたことを記憶されているかもしれません。また18歳選挙権という通称にも「18歳」という語が含まれますから、直接この言葉が合致する18歳のみが敏感に反応したのではないかと考えることもできます。

 もうひとつは、学校教育の効果についての仮説です。先程言及したように、18歳の投票率を比較的高いものだったと捉えると、18歳、19歳の両世代を比較したときの分かりやすい違いは、学校教育に組み込まれているか否かという点です。生活時間の大半を学校で過ごしているか否かといい換えてもよいかもしれません。高校への進学率はおよそ98%です。そこでの教師の言説をそのまま生徒たちが真に受けるかどうかはさておき、それぞれの学校の取り組みや教員の力量、生徒との信頼関係などによりますが、当日18歳だった人たちの大半は、18歳選挙権について学校現場で話を聞いているはずなのです。その一方で19歳については、進学したり、就職したり従来の20歳代とほぼ同じ生活を送っていたと考えられます。それにともなって住民票を移さなければならないなど、投票にいくためのコストが増加していた可能性も高く、いずれにせよ、学校で投票を促されたりといった機会はもたなかったでしょう。

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『新プロパガンダ論』

辻田真佐憲+西田亮介 著

¥1,800+税|四六判・並製|本体256頁|2021/1/28刊行

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1983年京都生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(NHK出版)、『メディアと自民党』(角川新書)、工藤啓との共著『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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