実存主義的ゲームにむけて──『Detroit: Become Human』の問い|デヴィッド・ケイジ 聞き手=東浩紀

初出:2018年05月25日刊行『ゲンロンβ25』

©2018 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.

 本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます。ぼくは哲学者で、『ゲンロン』という雑誌の発行者です。前号の『ゲンロン7』で PlayStation®4 用ソフト『Detroit: Become Human』(以下『デトロイト』)のPVを取り上げ、サイバーパンクの歴史や現代社会との関係を論じました。それを興味深いと思ったソニー・インタラクティブエンタテインメントのかたが、このインタビューの機会を設けてくれました。

 『デトロイト』のディレクター兼シナリオライターを務められたデヴィッド・ケイジさんに、いろいろとお伺いしたいと思います。まずはこの作品の舞台について質問させてください。なぜデトロイトを舞台に選んだのですか。

デヴィッド・ケイジ 理由はいくつかあります。第一の理由はきわめて現実的なものです。デトロイトは自動車産業で栄えた都市であり、たくさんの巨大な空倉庫がある。アンドロイド産業が世界のどこかに定着しなければならないとすれば、ここだと考えました。第二にわたしは、デトロイトの物語に興味をもちました。デトロイトはかつて巨人でしたが、そのあと困難な時代に入った。そしていまは再建を試みている。それはまるで人間の物語のようです。成功を収め、苦しみ、復活するキャラクターですね。わたしはこのような話が好きです。三つめの理由は歴史です。デトロイトでは多くの重要なことが起こりました。とくに市民権に関わることです。一九六三年に「自由への行進」があり、マーティン・ルーサー・キングがそこにいました★1。今年はキングの死からちょうど五〇年にあたります。以上のような理由で、デトロイトはこの作品にとって完璧な場所だと考えました。

 デトロイトは「ラストベルト」と呼ばれる工業地帯の中心です。過去には日本車不買運動もありましたし、二〇一六年の大統領選ではトランプの支持者が多かったとも言われます。経済的に恵まれていない、保守の労働者が多い土地という印象ですが、そこでアンドロイド=労働者の反乱を描くという物語は、政治的メッセージと受け取られる可能性があると思います。そのような受け取りかたについては、どうお考えでしょうか。

ケイジ 興味深い質問ですね。わたしたちはこの作品で、思考を刺激する経験、そして意義深い経験を生み出したいと考えています。今日の世界と共鳴し、現実と関連する物語を作りたい。世のゲームは、現実に囚われず、別の何かを夢見ているものが多いのではないでしょうか。けれどもわたしたちは、そろそろ、深刻な問題を扱う作品を作ってよいのではないかと考えました。隔離や抑圧や市民権などを扱う作品です。わたしたちは、いまやそのような作品も受け入れられると信じています。というよりも、それこそ本作がゲームユーザーのコミュニティに投げかけている質問なのです。あなたたちはこのような経験についてどう思うのか、と。

デヴィッド・ケイジ氏 撮影=編集部

 

アンドロイドから人間を見る


 つぎに、アンドロイドを登場させた意味について質問させてください。なぜ人間ではなく、アンドロイドを主人公にしたのでしょうか。

ケイジ 本作の脚本の出発点は、わたしたちが二〇一二年に発表した『Kara』という短い動画作品にあります★2。3Dでさまざまな表情をテストするために作成した、いわばテクニカルデモです。そこでわたしは短い脚本を書きました。カーラというアンドロイドが、視聴者の目の前で、生産ラインで組み立てられるというものです。彼女は部品を組み合わせて作られるのですが、感情をもっていました。

 この動画がたいへん成功して、何百万回も再生されました。そこでわたしが驚き、また関心を抱いたのは、人々がなぜカーラをここまで愛したかということです。彼女はただのロボットでアンドロイドです。そして目の前で組み立てられている。それなのに人々は感情を感じた。わたしはこのことについて考えたいと思いました。本作の企画が始まりアンドロイドの物語を作りたいと言うと、アンドロイドの物語はいままでもたくさんある、それなのにどうしてあらたに作るのかといった反応が返されました。けれども、自分の物語は過去の作品とはちがうと感じたのです。たしかに、アンドロイドや人工知能が悪者になり、人間がそれらと戦うといった物語はたくさんある。けれども、わたしが語りたいのはそういう物語ではありません。わたしが語りたいのは、アンドロイドが新しい知的な種となり、新しい目をもって世界を発見し、わたしたち人間のほうが古い種になっていく物語です。そこでは、わたしたちのほうが、自己中心的で、テクノロジーに依存し、そして存続するには古すぎる種になっていく。わたしは、わたしたち人間が彼らの視点からどのように見えるかに関心がある。だから視点人物はアンドロイドにしたのですね。

 むしろアンドロイドのほうに、人間の可能性を見たということでしょうか。

ケイジ そうですね。重要なのは、『デトロイト』は、人工知能についてというよりもわたしたちについての作品だということです。それは人間についての作品であり、社会についての作品であり、わたしたちがなにになるのか、なにであることを受け入れるかについての作品です。わたしはたしかにアンドロイドを使いました。でも実際はわたしたち人間についての話なのです。

©2018 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.

 『デトロイト』のオリジナリティを理解したうえで、影響関係もお聞きしたいと思います。労働力として使われているアンドロイド(ロボット)が反乱を起こすという物語は、古くはカレル・チャペックの「R.U.R」に遡り、アイザック・アシモフやフィリップ・K・ディックなど、SFの歴史のなかで多くの名作が生み出されていると思います。今回、参考にした作品、影響を受けた作品はありますでしょうか。

ケイジ ひとはつねに影響を受けているものです。とはいえ、年をとるほど、他人の影響を取り除き、自分の声を見つけようとするようになる。わたしもそうです。

 そのうえで言えば、わたしはオーウェルの『一九八四年』のファンです。ブラッドベリの『華氏四五一度』のファンでもある。わたしはSFのいわゆる黄金時代が好きで、五〇年代、六〇年代、すべてが大好きです。むろんディックと『ブレードランナー』もすばらしい。これらの作品と『デトロイト』に共通するのは、人間について語るためにSFと未来を選ぶことだと思います。逆に異なっているのは、『デトロイト』では、人工知能について話すかわりに、アンドロイドの感情的側面に焦点をあてていることです。わたしはアンドロイドを、あるとき目覚めて、自分はもっとよい人生を送るに値すると感じる、そのような存在として描きました。それは多くの人々が感じるものです。わたしはSFの方法をそのように使っています。

★1 「自由への行進」とは、人種分離法のもと依然として差別を受けていたアフリカ系アメリカ人などが、白人と平等な市民権の獲得と差別解消を求めた「公民権運動」のデモ行進を指す。デトロイトから二ヶ月後の八月、「I have a dream」の演説で有名なワシントン大行進が行われた。
★2 URL = https://www.youtube.com/watch?v=8wWHxIfwS1k