つながりβ(5) ユルい鉛筆|松山洋平

初出:2018年8月17日刊行『ゲンロンβ28』

 或る事物には、その事物の性質を形容するのに適したことばと、あまり適していないことばがある。言いかえれば、おのおのの事物には、その事物と親和性の高いことばと、親和性の低いことばがある。

「鉛筆」ということばについて考えてみよう。

 たとえば、「濃い」「薄い」という形容詞は、「鉛筆」ということばとひじょうに親和性が高い。つまり、「濃い鉛筆」「薄い鉛筆」という表現はきわめて自然なものである。鉛筆というものはおよそ中心部に芯を持っており、多くの場合、その芯の硬度は「濃い」「薄い」ということばで言い表されるからだ。おなじように、「長い」や「短い」、「書きやすい」などのことばも「鉛筆」と親和性が高い。

 一方、「熱い」「冷たい」や「深い」「浅い」、「ずうずうしい」とか「うやうやしい」といったことばは、「鉛筆」との親和性がひじょうに低いと言える。

 なんらかの比喩として用いる以外は、語の直接の意味で「この鉛筆はずうずうしい」と述べることは難しい。「ずうずうしい」は、人間を中心とした生き物について、或る特定の態度を形容するために用いられることばであり、鉛筆のような無生物の性質を指示することばではないからである。「この鉛筆はずうずうしい」という文章は、なにを意味してそう述べたのかが──言外にであれ──さらに説明されなければ、その意味が伝達されることはない。

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1984年静岡県生まれ。名古屋外国語大学世界教養学部准教授。専門はイスラーム教思想史、イスラーム教神学。東京外国語大学外国語学部(アラビア語専攻)卒業、同大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。著書に『イスラーム神学』(作品社)、『イスラーム思想を読みとく』(ちくま新書)など、編著に『クルアーン入門』(作品社)がある。

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