「表面」を収集する――『新写真論』刊行直前インタビュー|大山顕

初出:2020年2月28日刊行『ゲンロンβ46』

 ゲンロン叢書005『新写真論』が3月24日より全国書店にて発売されます。その刊行を記念し、著者の大山顕さんに同書についてお話をうかがいました。「スマホによってカメラは完成した」という言葉の意味や、執筆に至るまでのご本人の活動、このさきの展望まで、『新写真論』をより楽しむためのトピックが満載です。だれもが高性能のカメラを持ち、いい作品を撮れるスマホの時代に、「写真」と「写真家」の意味はどう変わるのか。必読のインタビューをお届けします。(編集部)

 
谷頭和希(編集部) ゲンロンではこの三月に、ゲンロン叢書005『新写真論』を刊行予定です。同書は本誌『ゲンロンβ』の連載「スマホの写真論」(第13‐40号掲載)をもとにしています。本日は著者である大山顕さんをお迎えし、その魅力を探ります。大山さん、よろしくお願いします。

大山顕 よろしくお願いします。

スマホが写真をまともにした


谷頭 インタビューにあたり「スマホの写真論」を読みなおしました。切り口は斬新でありつつ、テーマそのものは写真論として古典的とも言えるものであることに驚きました。

大山 そうですね。扱っている話題は遠近法や旅行写真、あるいは子どもの顔写真など、オーソドックスなテーマです。読み返して自分でも驚きました。

谷頭 『新写真論』では、そうした古典的なテーマがスマートフォンによって変容したと書かれています。具体的にはどのような変化があったのでしょう。

大山 まず機材の取り扱いが圧倒的に楽になりました。ぼくはカメラマンですが、機材についてそれほど詳しくないんです。しかしカメラ好きのひとと話していると、みんなほんとうによくカメラの勉強をしている。彼らはカメラを使って新しい視点を得ることではなく、カメラそのものに興味あるんです。もちろんいい機材を持っているのですが、被写体は尾瀬の水芭蕉だったりする。

谷頭 みんなが撮るものをよりきれいに撮るために、機材について学んでいる。

大山 一方ぼくは機材も最低限のものしか持っていないし、「いいレンズが欲しい」という欲もまったくありません。『新写真論』でも書いていますが、人々が機材にこだわっていたのは、カメラを上手く操作できるようになることが快感だったからだと思います。なにを撮るか以前にきれいに写真を撮ることに興味がある。上手くカメラが扱えることを証明するために、だれかがきれいに撮ったものを同じように撮ることに価値があった。しかしスマホの登場以降は状況が変わりました。ぼくはかつての「カメラはむずかしい」という認識は、絶対にまちがったものだったと主張しています。

谷頭 カメラがむずかしかった時代には、作品としての写真そのものより、機材であるカメラが議論の中心になっていたということでしょうか。

大山 そうです。その認識が当たり前だったので、世の写真論には「写真はむずかしい、お金がかかる、たくさん撮れない」という暗黙の前提があります。しかしスマホ以降、ようやくカメラが「まとも」になったとぼくは考えているんです。大衆化からここ100年ぐらいのこれまでのカメラは、非常に未熟なものだった。

谷頭 カメラが未熟とはどのような状態を指すのでしょう。

大山 たとえば写真よりずっと歴史が長い絵画や彫刻は、機材や道具によって作品の評価が左右されることはないですよね。しかし、おそらく絵画もキャンバスや油彩が出てきた当時は、最近までの写真と似た状況があったと思うんです。つまり「優れた発色の絵具が登場し、使い方は慣れていないけれどいいものが描ける」というような評価がされていた時代です。しかし長い歴史を経たことで、絵画ではさまざまな道具がさまざまなひとによって試されてきた。だからいま、絵を描こうとして絵具を一から作るひとは――一部の日本画などを除けば――ほとんどいないですよね。一方、写真はつい最近までそういうことをしていた。そんなイメージです。

谷頭 写真はメディアとして若いので、言説のなかで道具が前面に出すぎていたということでしょうか。

大山 そうです。その状態で写真を批評しようにも、あまり深さが出ない。

谷頭 ではスマホの登場によって、道具の制約にとらわれずに「写真とはなにか」が問える環境になったのでしょうか。

大山 このインタビューの結論はそこに帰着すると思います。カメラは操作がややこしく技術が必要だったために、写真そのものの評論がしづらくなっていた。しかしスマホによってだれでも思ったとおりに写真が撮れるようになり、ようやく「写真とはなにか」を考えられるようになり、ほんとうの意味で「写真論」が書けるようになった。それはここ数年のことだと思います。『新写真論』はそうしたことを論じた本です。

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