梅津庸一個展「ポリネーター」が、9/16(木)よりワタリウム美術館にて開催!

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ゲンロンα 2021年9月9日 配信

渋谷のワタリウム美術館にて、美術家の梅津庸一さんの個展「梅津庸一展 ポリネーター」が開催されます。会期は9月16日(木)〜2022年1月16日(日)。
パープルームギャラリーを主宰し、多方面で活躍されている梅津さん。ゲンロンでも「ゲンロンβ」の連載や新芸術校の講師を担当しているほか、9月18日(土)開催のゲンロン友の会第11期総会DX(オンライン)「コロナ時代の人間の条件」でも、トーク番組に登壇されます。

 

ボトルメールシップ 2021
陶、20.5×26×12 cm
撮影:今村裕司

 

霞ヶ浦航空飛行基地 2006
板に真鍮筆 90.5×60.5cm
高橋龍太郎コレクション所蔵
撮影:木奥恵三

 

戯れ 2005
紙にインク、25.6×18.2cm

 

今回の個展では、梅津さんご自身のキュレーションのもと、2004年から2021年までの作品300点以上を展示。そのうち約200点が、昨年から取り組みはじめた陶芸の作品となります(そのほか、絵画作品約100点と映像作品3点)。

 

内なるスタジオ 2021
陶板、60×90 cm
撮影:今村裕司

 

密室 2019-2020
陶、17.0×19.7×10.5cm
個人蔵

 

フロレアル——汚い光に混じった大きな花粉—— 2012-2014
パネルに油彩、ミクストメディア、111.7×191.2cm
愛知県美術館所蔵
Photo by Ichiro Mishima

 

絵画作品においては、しばしば美術史を参照し、そこに自身を接続していく作風で知られていますが、我流で制作をはじめたという陶芸では、代表的な「花粉濾し器」をはじめ、自由自在でストレートな——それでいて底知れぬ隠喩も秘めた——表現が光ります。

 

信楽での作陶の様子 2021年

 

展示のタイトルである「ポリネーター」とは、花粉を運んで受粉させる媒介者のこと。制度の垣根をこえて影響しあう要素=「花粉」の力学が、絵画作品やパープルームでの実践から、信楽での陶作の最新の成果までをつなぎます。

 

Spring leg 2005-2007
板、綿布、油彩、60.3×90.2cm
高橋龍太郎コレクション所蔵

 

不詳 2017
板に墨、水彩、アクリル、インク、油彩、18.0×18.0×cm

 

不詳(小さな王国) 2018
板に水彩、アクリル、油彩、インク、22.1×14.1cm
個人蔵

 

高尾山にジャムを塗る、セカンドオピニオン 2018
ビデオ、4min 27sec

 

【主催者ステイトメント】

近年の現代アーティストの中で、梅津庸一ほどその活動全域を把握しづらい作家はいない。細密画のようなドローイングや点描画のような絵画作品、自身を素材としたパフォーマンスを記録した映像作品、陶芸作品から、キュレーション、非営利ギャラリー運営など、その領域は多岐にわたっている。本展は2004年から2021年までの作品を梅津自身がキュレーションしていくが、回顧展ではない。タイトルにある「ポリネーター」は植物の花粉を運んで受粉させる媒介者という意味をもち、梅津自身の立ち位置をたとえて選んだ言葉だ。繊細でフラジャイルなものということで、アートと花粉は似ているかもしれない。それを世界中に広げていく。実際この2年、私たちの世界は微細なウィルスによって麻痺状態に追い込まれ、新たな扉を開かざるを得ない状況に来ていることを考えれば、花粉のようなアートが世界を席巻しても決しておかしくはない。
実は、ワタリウム美術館も「花粉」との縁が深い。1990年開催の第一回展「ライトシード」では、ゲスト・キュレター、ハラルド・ゼーマンが目の覚めるような黄色のたんぽぽの花粉(ヴォルフガング・ライプの作品)を真新しいワタリウム美術館のフロアに敷き詰めた。日本の現代美術にとってそれは衝撃的な出来事だった。また翌年1991年の「ヨーゼフ・ボイス展国境を超えユーラシアへ」では、ボイスの「ポーレントランスポート1981」というアクションを展示した。ボイスは自身の作品を自分で運転するトラックに乗せて運び、ポーランドのウッジ美術館に寄贈した。第二次大戦中この「ポーレントランスポート」というドイツ語がポーランドへの輸送=死の道を連想させたが、ボイスはそのあってはならない歴史に〈再生〉の行動を加えた。この「ポーレン」と言うドイツ語には「ポーランド」と言う意味と同時に隔たりを超え軽やかに運ばれていく「花粉(ポーレン)」が掛けられていた。
梅津は言う、「美術とはなにか。そして芸術の有用性や公共性とはなにか。それはわかりやすい希望やとっつきやすいビジョンの提示にあるのではなく、一見すると有用性や公共性など感じられないほど入り組んだ悪い夢のような世界にこそ存在する」と語っている。いつも梅津の作品は悪い夢のようでいて、とてもロマンチックなポエムのような空間を有している。本展ではさらに次のステージへと移り、楽しみな未知の空間となるはずだ。
梅津は、1年前から陶芸にも取り組んでおり、今年の5月からは日本六古窯のひとつに数えられる信楽に滞在し作陶している。梅津はやきものの街である信楽を、作家や職人、現代アート、愛好家、量産品や建材を手がける窯業の関係者、販売メーカー、材料工学の研究者にいたるまで生活と産業と芸術がリンクする結節点と捉えている。この見方は「表現者は街に潜伏している。それはあなたのことであり、わたしのことでもある。」展や「フル・フロンタル」展の問題意識と連続性を持っている。また、梅津の陶作品は美術史を参照し、自身を抑圧しながら制作する絵画作品とは異なり、作家が本来持っている造形の語彙がストレートに表出していることが特徴といえる。本展でも展示される陶作品は、梅津の初期作品に通じるあやしい雰囲気を宿しており、その点も興味深い。それはもしかすると、信楽でワンルームのアパートを仮住まいとした生活が、出身地である山形から上京した頃の初期衝動を梅津に思い出させているのかもしれない。
また梅津はロバート・ラウシェンバーグが1982年に信楽に長期滞在し大塚オーミ陶業株式会社との協働で大型の陶板作品を制作していることに注目し、ラウシェンバーグの「コンバイン・ペインティング」や信楽滞在での経験を起点に32枚の陶板作品を大塚オーミ陶業で制作した。ちなみに支持体には建材用の陶板が使用された。本展においてこの陶板作品は陶芸と絵画、そして産業と芸術とを結びつける重要な役割を担うだろう。

 


 

【梅津庸一のプロフィール】 1982年山形県生まれ、相模原在住。 主な個展に、08年「POST GRADUATION」ARATANIURANO。17年「未遂の花粉」愛知県美術館。 21年「平成の気分」現代美術 艸居。主な展覧会に 17年「恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一 の構想画」ワタリウム美術館。18年「パープルタウンでパープリスム」パープルーム予備校ほか。19年「百年の編み手たち ——流動する日本の近現代美術——」東京都現代美術館。20年「梅津庸一キュレーション フル・フロンタル 裸のサーキュレイター」三越コンテンポラリーギャラリー。21年「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989–2019」京都市京セラ美術館。21年「絵画の見かた reprise」 √K Contemporary など多数。 作品集に『ラムからマトン』(アートダイバー)。美術手帖 特集「絵画の見かた」(2020年 12月号)監修。そのほか自身のパフォーマンスを記録した映像作品、ドローイング、陶芸、自宅で 20歳代のメンバー複数人と共に制作/生活を営む私塾「パープルーム予備校」(2014年-)の運営、自身が主宰するパープルームギャラリーの運営と企画、テキストの執筆など活動は多岐にわたる。  
「梅津庸一展 ポリネーター」 会期|2021年9月16日(木)〜2022年1月16日(日) 休館日|月曜日(9/20、1/10は開館)、12/31-1/3 時間|11:00〜19:00 主催・会場|ワタリウム美術館 協力|浦野むつみ、艸居、田中優次(株式会社 釉陶)、大塚オーミ陶業株式会社 公式サイト|www.watarium.co.jp//

プレスリリース

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