国民クイズ2.0(前篇)|徳久倫康

初出:2012年7月8日刊行『日本2.0 思想地図β Vol.3』

 ここに再録するのは、2012年刊行の『日本2.0 思想地図β Vol.3』に掲載された「国民クイズ2.0」の全文である(掲載にあたり図版の引用箇所を外したため、一部の表現をあらためている)。

 発表から8年、世はクイズブームを迎えている。当時はこんなに流行ってなかった。今月(2020年6月)には、『ユリイカ』で「クイズの世界」なる特集が組まれた。ぼくも「競技クイズとはなにか?」という論考を寄稿し、田村正資さん司会のもと、伊沢拓司さんとの対談に参加している。テレビのクイズ番組だけでなく、競技クイズの世界にも注目が集まっているようだ。

 対談の「クイズ王とは何者なのか?」では、以前ぼくが書いた「国民クイズ2.0」を何度か参照した。ほかのいくつかの論考でも参照いただいているようだ。しかし掲載誌の『日本2.0』はほぼ品切れ状態で、いまのところ再版の見込みもない。

 このまま死蔵というのももったいないので、編集長の許可を得て、ここに当時のテキストを再録することにした。

 当時24歳のぼくは、クイズ文化の盛衰を通して、戦後日本史の再解釈を試みている。最終的に導かれる「クイズ=国民投票」の提案は、いま読み返すと「クイズの政治利用」そのもので、現役のプレイヤーである自分にはかなり抵抗がある(執筆時点では、ぼくはまだ「競技クイズ」をはじめていなかった)。しかし大づかみなクイズの通史としては、いまでも十分通用するパースペクティブを提供できているはずだ。

 戦後日本にとってクイズとはなにか。どのような起源を持ち、いかにしていまの姿に至ったのか。一見ありふれており、当たり前のようでもあるこの営みについて、踏み込んで考えるヒントになればうれしい。(徳久倫康)

 

日本国憲法

第12章   国民クイズ(国民クイズの地位)
第104条 国民クイズは国権の最高機関であり、その決定は国権の最高意思、最高法規として、行政、立法、司法、その他あらゆるものに絶対、無制限に優先する。本憲法もその例外ではない。
――杉元伶一原作・加藤伸吉画『国民クイズ』より★1

0 人工知能とクイズ王


 2011年2月16日、アメリカのクイズ番組『ジェパディ!』(Jeopardy!)で、IBMが作成したコンピュータシステム「ワトソン」(Watson)が、伝説的なチャンピオンであるケン・ジェニングスとブラッド・ラターに勝利した。『ジェパディ!』は1964年以降長きにわたって人気を博し続けている番組であり、コンピュータと人間の頂上決戦は放送前から全米の注目を集めた。ワトソンはIBMという企業にとって――かつて、未来を象徴する最先端のIT企業の代表であったにもかかわらず、いまやグーグルやフェイスブックにそのイメージを奪われて久しい――社の威信を賭けた一大プロジェクトであった。開発チームは繰り返し過去のチャンピオン相手の模擬戦を試行し、ワトソンは67パーセントの勝率を示していた。負けは許されないが、勝利が保証されていたわけではなかった。

 果たして、ワトソンは並み居るチャンピオンたちを圧倒した。コンピュータ相手に大差をつけられながらも果敢な戦いを続けていたジェニングスは、最終問題の小説『ドラキュラ』の作者を尋ねる問題に対し、正しい回答である「ブラム・ストーカー」(Bram Stoker)の名前の下に、かっこつきでこう記した。「私は新しいコンピュータ君主を歓迎します」(I for one welcome our new computer overlords)。スタジオに拍手が巻き起こった。人工知能がクイズ王を打ち破ったのだ。


★1 杉元伶一原作・加藤伸吉画『国民クイズ』上巻、太田出版、2001年、5頁。


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