【 #ゲンロン友の声】「老い」とどう向き合えばよいのでしょうか?

 東さんに質問があります。「老い」について、何か考えておられることはありますか?
 今はエビデンス主義が席巻する時代で、証拠や数値が重視されます。文系学部の縮小から「いいね」で測られる承認まで、「計量可能」ということが幅を利かせています。何の役に立つのか、どの程度の効用があるのか、数値で示せないものは即ち意味が無いことにされ、切り捨てられていく。そんな中、高齢者に対する風当たりも強くなっているように思います。表立っては言わなくても、ネットを見れば国家のお荷物、老害といった言葉が目に付きます。長く生きてきたから、昔のことを沢山知っているし、言うことには何かしらの深みや含蓄があるはずである。老人に対する敬いには元々そのような「計量不可能」な信憑があると思います。記憶が確かではないのですが、東さんは、人文学の価値とは昔のことをよく知っていることであるとおっしゃられていたように思います。だとすれば過去のことを沢山知っている老人に対する敬いと、人文学の価値や権威は同じ所に根を持つのではないかと思います。そのように思い質問させていただきました。(滋賀県・20代・男性・友の会会員)

 老いについてはよく考えています。なによりもぼく自身が老いてきました。ぼくはいま47歳です。人生の折り返し時点をとうにすぎており、あと10年ちょっとで還暦です。そんななか、どう老いたらよいのか、よく老いるとはなにかということを日常的に考えてます。そしてぼくも「老害」といった言葉が考えなしに使われるいまの状況は、ほんとうによくないと思っています。人間はすべて老いる。いま老害を批判している人々も必ず老いる。つまり老害批判は必ず自分に跳ね返ってくる。その前提のうえで相互の尊敬に満ちた社会を作らないと、だれもが生きにくいに決まっています。ただ、ぼくはこの問題の原因は、計量不可能云々といった話ではなく、単に日本社会にはびこるエイジズム(年齢差別)の問題だと思っています(というのも、計量可能性が原因なのであれば、むしろ老人の価値こそ計量可能で、若者の可能性こそが計量不可能だという話になってもいいからです)。日本社会はエイジズムに満ちています。その被害者は老人だけではありません。若者もそうです。中高年もそうです。みな年齢に「見合った」振るまい=演技を要求され、不自由な人生を強いられている。しかも日本ではそれがセクシズムと結びついてもいる。「若い女性」というだけでどれほど不自由で屈辱的な振るまいを強いられるか、最近はずいぶんと公に語られるようになってきましたが、じつは同じ問題はぼくのような中高年の男性にもあります。「40歳代後半の男性」というレッテルもそれなりに不自由で、たとえばぼくがなにかを話せば、それだけでハラスメントになり暴力になる。いや、それどころか、こう記すことそのものが、中高年男性の暴力体質を肯定していると取られかねない、つねにそんなふうに怯えて自己チェックを欠かさずに生きていかねばならないのが現代日本の中高年男性という存在であり(ちなみにいえば、最近話題の『新潮45』の小川榮太郎氏などは、まさにそんな中高年男性の暴力的ステレオタイプを自ら演じることで生き残りを図っている残念な例だということができます)、これもこれでけっこうストレスフルなものではあるわけです。いずれにせよ、ぼくが言いたいのは、ほんとうは若い世代が「老害」という言葉で批判したいのは、そのようなエイジズムではないのかということです。「若者だから」ということで変な期待やまちがった理解が押しつけられる社会は困る。それはそうで、だとすれば高齢者にも同じように変な期待やまちがった理解は押しつけないべきです。ぼくたちが共同で目指すべきはみなが個人として自由に生きることができる社会であり、若者とか老人とか女性とかのレッテルで理解される社会ではない。敵は老人ではなくエイジズムです。で、最後に結論ですが、だからぼくは、老人が老人であるがゆえに敬われるべきだとも思いません。若者にクズが多いように、老人にもクズは多い。クズな老人は軽蔑されるべきです(念のためいっておきますがこれは年金を下げろみたいな制度の話ではありません)。そのような緊張感があって、はじめてひとは真剣に「よく老いる」ことについて考えることができるはずだと思います。(東浩紀)
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1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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