【 #ゲンロン友の声|011 】どうすれば読みやすい文章を書けるようになりますか

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webゲンロン 2020年9月8日配信
 東さんの文章を読むたび、自分でも文章を書きたくなります。そして、当たり前だけど面白くて読みやすいことは大事だなと気づかされます。ただ、面白さは才能とか好みが大きいのかもしれません。どうすれば読みやすい文章を書けるようになりますか。東さんがふだん意識しているポイントをお聞かせください。(三重県・10代・男性・会員)

 質問ありがとうございます。読みやすい文章だと評価いただいて嬉しいです。ぼく自身つねに文章の読みやすさを心がけていて、いろいろ自分独自のルールもないわけではありません。たとえば、これはしばしば言っているのですが、ぼくは段落の機能をとても重視しています。ひとつの段落では原則的にひとつのことしか主張しないようにしていて、そんな段落を複数まとめて2000字から4000字の「ユニット」なるものをつくり(ぼくの文章にはときどき1行空きがあるはずですが、それがユニットの隙間です)、そのなかで基本的に「問い」「答え」の関係を完結させるようにしている。多くの読者にとっては、それ以上長いと論理的な筋道を追うのが難しくなってしまうからです。そしてそのうえで、原稿用紙50枚、100枚といった長い文章は、あくまでもその「ユニット」を組み合わせて、つまり「問い→答え」のリズムを繰り返すことで展開するようにしている。と、まあ、そういう「読みやすさのコツ」はほかにもいろいろあって、それを列挙することもできるのですが、おそらくは質問者の方が聞きたいのはもっと大きな心構えなのだと思います。で、あれば、もっとも肝心なのは「だれに読ませるか」をしっかりとイメージすること、そしてそのイメージを少しずつでも広げるように心がけることだと思います。質問者の方は10代ということなので、おそらくはまだ、読者として、同世代の同じような趣味の同じような知識をもつひとを想像することしかできないと思います。ぼくも若いころはそうでした。だからとりあえずはそれでかまいません。読者をしっかりとイメージできていないと、読みやすさ以前に、なにもかもがぐずぐずになるからです。けれども、そのイメージはしっかりしていればいいというわけでもない。読者のイメージを固定したまま歳を重ねていくと、視野が狭いひとということになります。そしてその狭さが、読者には「読みにくさ」と感じられるようになります。典型的なのが学者の文章です。彼らは自分の仲間に向けてしか書いていない。だから学者以外には読めない。読みやすさとは、要は読者の「広がり」のことなのです。論理はその広がりを確保するための道具です。自分とは異なる世代の、異なる人生経験をした、異なる階級や異なるジェンダーや異なる国籍の読者にいかに届けるか。そのことを意識し続けることが、文章がうまくなるための最大の秘訣だと思います。(東浩紀)

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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