【 #ゲンロン友の声 】なぜ現代思想の読者はメンヘラが多いのですか

こんにちは。いつも素晴らしいコンテンツを提供していただき、とても感謝しております。今後ともよろしくお願いします。さて、少しお伺いしたいのですが、「東浩紀がいま考えていること」の放送前に東さんがツイッターで「今の現代思想の読者は恐ろしく浅薄であり、そのことについても放送で言及しようと思っている」といった趣旨のツイートをされていたかと思うのですが、当該放送を一度拝聴した限りでは特に深くは触れられていなかったように思います。(もし言及されていたのでしたら私の注意不足です、すみません。)私自身、現代思想に興味を持っている一般読者というのは基本的な読解力不足に加えて何と言いますか…現実世界で妙なコンプレックスを拗らせてしまったワナビー、メンヘラのような方々が多いように感じてしまい、辟易としてしまっています。なので、ここで東さんの現代思想の読者に対する率直なご意見を伺えたら幸いです。なんだか偉そうな感じの質問になってしまいましたが、どうぞよろしくお願いいたします。(東京都・20代・男性・非会員)

 まず、前置きとしてですが、これから話すのは青土社さんの雑誌『現代思想』の読者のことではなく、一般名詞としての「現代思想」の読者です。そのうえでいえば、現代思想の読者に「現実世界で妙なコンプレックスを拗らせてしまったワナビー、メンヘラのような方々が多い」というのは、まさにそのとおりだと思います。なぜそんな乱暴な断言ができるかといえば、ぼくが四半世紀前にまさにそれだった、それもふつうの読者ではなかった、読者オブ現代思想読者、キングオブ現代思想読者で、そしてぼく自身がワナビー的でメンヘラ的だったからです……とかいうとバカみたいですが、ぼくがかつておそろしく熱心な現代思想読者で、現代思想のことばかり考えていたのはたしかです。そのころは、小説を読んでも、映画を見ても、政治やジャーナリズム関係の書物を読んでも、現代思想のタームで解釈できないものは「意識が低い」「遅れた」ものだと決め付けていました。いや、むろん本人としては決め付けているつもりはないのですが、無意識にそういう価値観が忍び込んでいました。そして他人にそれを押し付けていた。例としてぼくが1996年あたりに『InterCommunication』誌に書いた短い『エヴァンゲリオン』論を挙げておきますが、そこではぼくはエヴァを評価するためにゴダールとか持ち出している。なぜそんな必要があったのか、いまではさっぱりわからない。でも25才のぼくは、そのようにして作品や現実を現代思想のタームにつなげることが「批評」だと思い込んでいたのですね。その痛さこそが質問者の方が「ワナビー、メンヘラのような」と形容したものだと思いますが、それはいまから振り返れば、自分のまわりに生硬な言葉で壁を作り、現実の他者を等身大で受け取らないようにしている弱さの現れでしかありません。いまの現代思想の読者たちにも、そんな弱さは相変わらず受け継がれているように思います。大人になったぼくはあまりそういう読者は相手にしたくない。つまりは、人新世とか加速主義とか思弁的実在論とかアクターネットワーク理論とか反出生主義とか勉強するのはいいけど、現実には世界はそれとは無関係に生きているひとだらけだし、その人々だってものを考えてないわけじゃないんだから、ふつうの言葉でふつうに話す勇気をもて、話はそれからだってことですね。それが、きっと、ご指摘のツイッターで(よく思い出せないのだけど)ぼくが言おうとしたことです。——と、まあ、基本はこういう感じなのですが、しかしその前提のうえでいえば、ぼくはそのような「弱さ」があまり憎めないことも確かです。等身大の現実などどこにあるのかさっぱりわからず、鈍感さと繊細さのあいだを極端に往復し、現実から激しく遊離した言葉でようやく世界を捉えられるかのように錯覚するその感覚——ひとがそのような倒錯に囚われる必然性があることは、なによりも、かつてまさに現代思想の読者だったぼく自身がよく知っている。そして、知っているだけでなく、いまだに、それこそが本当の哲学の源泉であるように感じているところもある。ひとは強く、現実的にならねばなりませんが、最初から強く現実的なひとはそもそも哲学を必要としないと思うからです。最近の山本直樹さん、さやわかさんとのイベントでも話したことですが、ぼくは同じような理由で、セカイ系や永田洋子の言葉にも関心をもっています。
(東浩紀)

 

ゲンロンに寄せられた質問に東浩紀とスタッフがお答えしています。
ご質問はこちらから!

その他の記事

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(1998年、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(2001年)、『クォンタム・ファミリーズ』(2009年、第二三回三島由紀夫賞)、『一般意志2・0』(2011年)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(2017年、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(2019年)、『テーマパーク化する地球』(2019年)ほか多数。

NEWS

連載

ゲンロンβ