「誰かのお父さん」のフリをして滑り台を……子供の世界にいつのまにか紛れ込む小児性愛者たち 前略、塀の上より(12)|高橋ユキ

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webゲンロン 2024年4月25日配信

 ここ数年、人間ドックで要検査になる項目が出てきたり、疲れがなかなか取れなかったり、歳を取ったなぁと感じることが増えてきた。乗り物としての身体に少しずつガタがきて、ちょくちょくメンテナンスしながら乗ってはいるが、壊れて動かなくなる日も見えてきた……そんな感覚だ。そのうえ記憶もなんだか怪しい。最近よく「過去の自分の記憶が本当にあったことなのか」と不安になる。当時その場にいた相手が死んだり、疎遠になったりすることで、不安はさらに増す。データをバックアップしていたUSBメモリがどこかにいってしまったみたいな感覚である。後期高齢者になる頃には、自分の記憶が実は全て妄想だったのかもしれないと思ってしまいそうだ。なのでここのところ、思い出したことを書き留めたりするようになってきた。今回の冒頭は「忘れないうちに書き留めておきたいちょっと昔の話」から始めたい。

 私の子供がまだ保育園の年中さんだった頃、よく遊んでいた親子たちとちょっと大きな公園にママチャリで出かけた。たしか陽の高いうちから遊んで、夕方に差し掛かる頃、その公園に移動したのだと思う。遊具で遊ぶ子供たちを脇で見守りながら、ママさんたちと話に花を咲かせていた。なんの病気がどこの保育園で流行っているのか、どこの病院がいいか、親子連れでも嫌がられない飲食店はどこにあるのか……子育ての情報は口コミが重要だ。話も盛り上がる。そんな折ふと見ると、子供のお友達のひとり(女の子)が男性の膝に乗って滑り台を滑っていた。その日はママさんだけではなくパパさんたちも集まっていたので、その子のお父さんかな? と思ったのだが、どこをどう見ても、その子のお父さんではない。ていうかその日集まった子供たちの誰のお父さんでもない。そして謎の男性の膝に乗っている当の女の子の表情が全然楽しそうじゃない。いっぽう、謎の男性は満面の笑み。なんだあいつは? ママさんトークの輪から少し離れ、その女の子と謎の男性に近づきながら大きめの声をかけると、謎の男性はさりげなく女の子から離れていった。

 たまにものすごく面倒見のいい大人も公園にはいる。最初私は「別で遊びに来ているお子さんのお父さんかもしれない」と思いもしたが、好奇心からそれを確かめたくなり、少し尾行した。その男性が本当に誰かのお父さんであれば、最後は自分の子供と手を繋いだり、本当の子供が「パパー」と呼びながら駆け寄ったりするだろう。ところがそんな様子はなく、謎の男性はひとりで公園からいなくなった。状況証拠の積み重ねから私は謎の男性が小児性愛者だと推測し、そしてこの時初めて、小児性愛者が「誰かのお父さん」のフリをして幼い子供に近づくことがあるのだと知った。

 過去の小児性愛者の報道などから「幼い子供に性欲をむきだしにする大人」の一般的なイメージはひょっとしたら、いかにも怪しく暗いものかもしれない。実態は違っていた。たしかに子供に警戒心を抱かれては、彼らとしてはおしまいだろう。想像していたよりも人当たり良さそう……それが私の抱いた印象だった。また小児性愛者による事件はそれまでにも傍聴してきたが、いざ実際の生活にするっと入り込まれると、気づくのに少し時間がかかることも分かった。なかなか厄介だ。追いかけて問いただしたとしても「そんなつもりはなかった」と言われる可能性は十分あるシチュエーションだった。事件にならずとも、こうした微妙な行為はきっと他でもあるのだろう。

 

 忘れないうちに書き留めることができて少しだけホッとした。今回はそんな小児性愛者について、過去に傍聴した裁判から感じた傾向、そして現状などを綴ってみたい。小児の定義はMSDマニュアルに準じ、13歳以下とした★1

 裁判で見てきた小児性愛者として真っ先に思い出すひとりは、建設作業員として働きながら、その合間に公園で小児にわいせつ行為を繰り返していたという男だ。仮にAとする。今回も取材で得た情報に基づいているため、基本的に参考記事出典については過去に自分が書いた記事となる★2

 Aは札幌市や東京都で複数の女児にわいせつな行為をしたとして強制わいせつ致傷などの罪で起訴され、2020年7月から東京地裁立川支部で裁判員裁判が開かれていた。

 逮捕はその2年前の9月。再逮捕を重ねながら、同年12月に裁判官のみでの裁判として同支部で公判が開かれたものの、裁判員裁判に切り替わり、公判前整理手続に付された。被害女児のひとりがPTSDを患い、強制わいせつ致傷での起訴となったためだ。

 2014年夏、当時住んでいた札幌市内で女児にわいせつ行為を行なったのちにAは、転居先の東京でも女児に狙いを定め、逮捕まで4年間、わいせつ行為を繰り返した。逮捕当時、Aの携帯電話からは女児25人分の画像が見つかっていたが、裁判員裁判で被害者とされていたのは4〜8歳までの女児15名。そのうちひとりの女児に対しては、長期にわたり多数回犯行を繰り返していたうえ、女児の母親が乗っていた自転車の場所から家を特定し、不在の間に家に侵入。女児のパンツを盗んだという窃盗罪でも起訴されていた。さらには各犯行をスマホ2台で撮影しそれを自宅に保管していたほか、この動画を収めたハードディスクを名古屋市内で知人男性に150万円で売却したともいう。被告は全ての起訴事実を認めていた。

 手口は概ね共通している。仕事の空き時間や休みの日に、幼い子供たちが遊ぶ公園の近くまで車を走らせ、車内からタイミングをうかがう。隙を見つけるや否や、声をかけ、集合住宅の階段踊り場まで連れ出して犯行を重ねていた。

 連れ出すための声かけには、様々なパターンがあった。

「思いつきで女児の自転車近くに500円を置いた。気づいた女児は喜んでいたが友達の女の子が「届けないと」と言っていた。追いかけたが一度見失い、探すと、公園内で遊んでいるのを見つけた。「500円拾わなかった? 俺のなんだよ」と言うと女の子たちは「落し物箱にいれた」と言っていた。まず友達に話を聞かせてもらおうとすると泣き出したのでやめた。もうひとりの子は気が弱そうだったので「ついてきて」と言うと素直についてきた」(Aの調書より)

 罪悪感を抱かせたうえで人気のいない場所へ誘いこみ、わいせつ行為に及んでいたという。時には、自宅ドアを開けた女児に「おしっこしたい!」と、トイレを借りるフリをして声をかけ強引に部屋に侵入してもいた。階段踊り場で待ち伏せしたうえで「いててて!」と足を怪我したフリをして、声をかけてくれた女児に対しても加害行為に及んでいる。

「8割は「虫」っすね。猫は今年初めて使いました」

 これは彼が女児を誘い出す手口についてグループコミュニケーションアプリ「BAND」のグループ内で言及したものだ。犯行に選ぶ場所は共通している。建設作業員として働くなか、次の現場に向かうまでの時間や、休みの日などに向かうのは、集合住宅そばの公園。近くに車を停め、“保護者連れではない子供たち”を物色する。「家の目の前の公園だから安心」という親の心を逆手に取った場所選びだ。好みの女児がいれば車を降りて公園に入り、ベンチや東屋でタイミングをうかがう。そして女児たちが移動するのを見計らい、集合住宅のエレベーターホールまで追いかけ、こう声をかけるのだ。

「虫ついてるよ。とってあげる」

 排泄や500円玉などを口実にして子供の優しさや罪悪感につけ込むこともあれば、猫や虫などで注意を引くこともあった。小児性愛者はターゲットの年齢層が大まかに決まっていて、Aについては未就学児から小学生までの女児だったが、かつてベビーシッターのマッチングサイトに登録し、シッターとして小児らと接しながらわいせつな行為を重ねた末、殺害にまで至ったという男・Bは、Aよりもさらに年齢の低い乳幼児をターゲットとしていた。またBの場合は性別についてのこだわりはなく、被害児のなかには男児もいた。小児性愛者は女児だけを狙うわけではない。SNSで知り合った小学生男児を自宅に連れ込みわいせつな行為に及んだ男・Cの場合は、その事件の前には6歳の男児を商業施設内のトイレに連れ込み体液を塗りつけたという前科があった。小児性愛者は男児専門、女児専門、と固定されていることもあれば、性別不問の場合もあるのだ。

 

 彼らは普段の生活ではその性的嗜好を公にすることはないが、インターネット上で仲間を見つけ、交流を深めるケースがままある。大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師の男らが生徒である女児を盗撮した事件は昨今広く報じられたが★3、彼らもSNS上で同じ性的嗜好を持つ仲間らで交流を深めていた。前述のAも匿名掲示板のほかダークウェブ、そして「BAND」などに居場所を持っていた。スマホの普及も相まって、昨今のわいせつ犯は犯行時に撮影を行なっているのが常である。小児性愛者も例外ではない。「四谷大塚」の元講師らもそうしていたようにAも、犯行の様子をスマホで記録し、データを自宅のパソコンに保存していた。自分で見返すだけではなく「BAND」に投稿し、同じ嗜好を持つ仲間たちとデータを共有してもいた。元講師らもSNSに撮影データを投稿している。つまり、とかくデータを仲間内で共有する傾向があるのだ。それはおそらく小児性愛者の求めるデータが、“なかなか入手しづらい”ものであることも無関係ではないと思われる。

 冒頭に私は、自分の経験が本当にあったことなのか心配になることがあると書いた。その経験を記して共有することによって、私的な記憶を外部にコピーしている感覚を覚え、安心する。小児性愛者たちの経験は性的興奮を得るためのものであるから、後から何度でも興奮できるよう、自分のために記録を取る。犯行データはいわば記憶のバックアップともいえる。それを他者と共有することは、私が記憶を書き記す行為と、どう違うのか。公になれば自分の身を滅ぼすようなデータを他者と共有するメンタリティについて、少し考えてみた。

 すぐに想像できるのは、なかなか入手しづらい児童ポルノのデータを共有することによって、仲間からの賞賛を得られるのではないかということだ。表の生活では誰にも言えないような性的嗜好を持つ仲間たちには、データの価値が分かる。セックスした人数の多さを「百人斬り」などと表現する文化があるように、性的体験の多さが賞賛の対象となるコミュニティは性犯罪全般において珍しくはない。小児性愛者にとっては犯行動画自体が自慢のネタとなることだろう。さらに、こうしたデータは単に共有されるだけではなく、売買もされる。Aも「BAND」の仲間から犯行動画像を「売ってくれ」と頼まれ、データを収めた外付けハードディスクを150万円で売っていた。犯行時に、データを得ることが念頭にあったと、Aは被告人質問で語っている。

「仕事が休みで、車を運転してあらかじめ行ったことのある団地に行った。いやらしいことをする相手の幼女を探すなかで、以前子供が遊んでいるのを見たことのある公園だった。敷地内に行くと、5〜6歳のワンピースを着た幼女が滑り台の上で寝そべっていた。それを見ながら陰茎を出して触りながら近づき、スマホで幼女の動画を撮影した。後で自慰行為のオカズに使えるようにということと、財産価値があるので他人に譲れば金になると思っていた」

 「四谷大塚」元講師らも教え子以外の少女の性的な画像データなど1万点以上を所持していたというから、小児性愛者のマーケットの闇は深い。インターネット上で犯行動画を共有することは彼らにとって、単に記憶を共有するためだけでなく、取引を目的とした“新着動画のお知らせ”でもある。

 昨今は、小児性愛者に限らず、なにか特定の対象に固執し犯行を重ねていた者が公判で「治療に取り組む」ことを誓約したりする。Aに関しても治療を受ける意志を見せていた。だが果たして本当に小児性愛を“治療”できるのかは、現時点では疑問だ。依存症治療はそもそも時間がかかり、それは金もかかるということを意味する。続けるには相当な意志の強さと金銭的余裕がなければならないが、彼らはそれほど将来を楽観視できるような経済状況ではない。そんな者たちのために、刑務所内では性犯罪者に対して再犯防止プログラムが用意されている★4。だが小児性愛者に限っては再犯防止プログラムを受講したから安心というわけにはいかない。法務省が発表しているこのプログラムの成果には、小児性愛に関する犯罪の再犯において、受講者と非受講者に有意な差は見られなかったとある(14-15頁)。ゆえに小児を対象とした性犯罪を減らすには、当人らの努力に期待するだけでは不十分で、防止のための社会づくりが必須となる。

 つい先日、画像生成AIによる児童の性的画像がダークウェブに流出しているという報道があった★5。流出報道前に同じテーマを扱っていた昨年の記事には、「児童ポルノ禁止法は、18歳未満の性的画像を製造・公開し、性的好奇心を満たす目的で所持することを禁じる。だが、児童が実在することが要件で、AI由来のものは原則対象外だ」とある★6。画像生成AIで児童の性的画像を製造できれば、実在する子供を傷つけずに小児性愛者が興奮を得ることができるのかと言えばそれは間違っていると私は思う。Aは法廷で犯行に及んだきっかけを問われこう語っていたからだ。

「やはりあのう、インターネットの見過ぎというところになります。えー、児童ポルノ画像などを見ていました。それを見て、自分でも似たようなこと、同じようなことしてみたいという衝動が湧いてきました。画像掲示板というものがあり、そこで児童ポルノ画像を見ていました。動画等を見続けているうちに、気持ちが高まっていってしまったというか、そういう感じです」

 性的興奮を覚えるような動画・画像を見ることで、衝動が収まることなく、かえってエスカレートする場合もあるとAの証言は示している。画像生成AIによる児童の性的画像がインターネット上に増え続けることのリスクは今後、議論を深めていかねばならない重要なトピックだろう。


★1 「小児性愛」、「MSDマニュアル家庭版」。URL= https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%B0%8F%E5%85%90%E6%80%A7%E6%84%9B?ruleredirectid=464
★2 高橋ユキ「「虫ついてるよ。取ってあげる」──わいせつ魔が“仲間”に教えた、おぞましい“手口”」、「文藝春秋デジタル」、2021年2月6日。URL= https://bungeishunju.com/n/n2734f86691c7?magazine_key=m90004adde5d7 高橋ユキ「幼女わいせつ魔「俺は捕まらないと言い聞かせた」 2児の父はなぜ犯行を止められなかったのか」、「弁護士ドットコムニュース」、2020年8月30日。URL= https://www.bengo4.com/c_1009/n_11656/
★3 「四谷大塚元講師、別の教え子3人盗撮容疑で送検へ 児童ポルノ所持も」、「朝日新聞デジタル」、2023年10月24日。URL= https://digital.asahi.com/articles/ASRBR66BFRBRUTIL01P.html
★4 法務省矯正局成人矯正課 ・法務省矯正研修所効果検証センター「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析 調査報告書」、2020年3月。URL= https://www.moj.go.jp/content/001317462.pdf
★5 「AI児童性的画像、「闇サイトに1か月2500点」報告…東京でシンポ「国際対処を」」、「読売新聞オンライン」、2024年4月10日。URL= https://www.yomiuri.co.jp/national/20240409-OYT1T50183/
★6 「リアルな生成AI性的画像が氾濫、実在の被害児童と区別困難…削除要請や捜査にも支障」、「読売新聞オンライン」、2023年12月2日。URL= https://www.yomiuri.co.jp/national/20231201-OYT1T50210/

高橋ユキ

傍聴人。フリーライター。主に週刊誌系ウェブ媒体に記事を執筆している。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)に新章を加えた『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)が好評発売中。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

1 コメント

  • TM2024/04/30 16:55

    性的衝動は生物である限り逃れることはできない。 それが小児に設定されている人々の苦悩は確かにあるのだろうけれど、そんなものよりもずっと上位に被害を受ける子どもたちをなくすことが最重要課題だろう。 苦悩があろうとも他者を傷つけるのは事は何人にも許されない。希望に満ちて生まれた子どもたちが他者の身勝手な欲求で苦しむ姿は耐えられない。 欲望を如何に他者を傷つけないものにするのか。 それも取り組むべきことだが、現状それは叶っていないわけで何よりもまず子どもたちをそうした欲望から遠ざけることが必要だと思う。 いつもながら多様な切り口を提示していただき、考えさせられた。 ありがとうございます。

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