【 #ゲンロン友の声】どうすれば人の意識を変えることができますか?

 自分の周りには社会や政治に興味のない人が多いのですが、そのような人たちの意識をどうやったら変えることができますか?そうなってしまうのは今日の政治情勢を見ていれば当然だと思うのでわかるのですが、社会に無関心というのは私は残念です。私が喋るのが下手というのもありますが、ゲンロンでのイベントでのおもしろかった話をしても特に興味を持ってはくれません。東さんは先日twitterにおいて「自分の近くの数人でもいいから、地道にものごとを変えているひとを尊敬するように変わってきた」と仰っていました。私のような市井の人はどうすれば人の意識を変えることができるのでしょうか?一方で変わらない人はなにをやっても変わらないので、ダメなのかな、とも思います。やはり投票ぐらいしかないのでしょうか。お返事お待ちしています。(埼玉県, 20代男性, 友の会会員)

 まず最後の問いかけから答えますと、投票ではひとの意識は変わらないと思います。あなたが投票に行ったとしても、それが他のひとの意識に影響を与えることはない(当然です)。 それでは、ひとの意識を変えるためにはなにをすればいいか。結論から言えば、要は「意識を変えることができるほど親密な関係を作る」しかないと思います。言い換えれば「分厚い文脈を作る」しかないということです。どういうことでしょうか。人間は自分が知りたいものだけを知ろうとし、信じたいものだけを信じようとする動物です。それはむかしからそうでしたが、ポストトゥルースとフェイクニュースの世界になってますますそうなってきた。この条件下においては、言葉「だけ」で多くの人々の意識を変えることは、定義上不可能です。むろん、いまでも、あるキャッチーなメッセージが拡散し世界を変えたように見えることはある(そしてマスコミはそういう現象が大好きです)。けれど、それはメッセージが世界を変えたことを意味しない。それは、すでに変わっていた世界に、うまいぐあいにメッセージが後追いで載っかっていったことを示すにすぎない。すでに多くのひとがこのことに気づいています。だからぼくたちの時代では、哲学や政治やマスコミは軽蔑され、エンジニアが尊敬されるのだと思います。しかしそれでは、言葉は全面的に無力なのか。さすがにそうではありません。言葉はひとの意識を変えることはできる。新しいアイデアを提示し、世界を変えることもできる。しかし、そのためには言葉だけでは無理です。というか「短い言葉」だけでは無理で、ひとの意識を変えるためには、その言葉を包みこむ長大な「文脈」がセットに提示されないといけないのです。その「文脈」には、言語的なものもあれば非言語的なものもあるはずです。あなたは質問で、「ゲンロンおもしろいよ」といっても、それだけでゲンロンに興味をもつひとがまわりにいないと記している。そうかもしれない。そりゃそうだろうとぼくも思います。けれども、それは、言葉が無力なのではなく、あなたと聞き手のあいだの「共有する文脈」が小すぎることを意味しているにすぎない。「ゲンロンおもしろいよ」と言っても、おそらく先方には、そこでなにがおもしろいと言われているのかが伝わっていない。あなたがなぜおもしろいと言うのかが伝わっていない。あなたがなぜそのことをそのひとにそのときに言うのか、その必然性が伝わっていない。だから聞いてくれない。それらメタ情報は、けっしてコミュニケーションの付随物ではなく、ある意味ではそちらのほうが本体なのです。質問者のかたは自分はしゃべるのが下手だと記していますが、「しゃべるのがうまい」というのは、そのようなメタ情報をうまく話のなかに入れていく技術をもつことを意味します。自分は市井のひとなので無理なのかとも記されていますが、著名人の言葉がひとの意識を変えやすいように見えるのは(本当にそうなのかは上述の理由でとてもあやしいのですが)、彼らの言葉にはすでに「文脈」がくっついているからです。つねに重要なのは「文脈」です。あるいは「メタメッセージ」。メッセージを伝えつつも、そのメッセージがなぜいまここで発せられる必要があるのか、そのメタメッセージをたえず補足し続けること。それができれば、言葉はひとの意識を変えることができるはずなのです。ただ、この方法の欠点は、それがとてもコストがかかり、また特定の聞き手に対しての毎回毎回カスタマイズを要求するので、そうそう複製できない、すなわち商品化できないということです。しかしこれも、考えてみればあたりまえのように思います。ひとの意識を変えるなんてことが、そうそう複製できて、スケールできてはたまったものではない。ひとの意識を変えるというのはたいへんなことです。それを簡単にできるように言っている人々は、すべて詐欺師です。そして質問冒頭の「社会や政治」の話に戻れば、いまの日本がさまざまな点で行き詰まっているのは、政界も言論界もそういう詐欺師ばかりだからなのだと思います。(東浩紀)
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1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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