【 #ゲンロン友の声 】ポリコレ疲れになにか対策はありますか?

充実したゲンロンさまのコンテンツ、いつもお世話になっております。さてそこで質問なのですが、今世界では新反動主義や暗黒啓蒙と呼ばれるものが跋扈し、規範的な議論そのものに対してシニカルな目で見る論調が幅を利かせ、とにかく面白ければいいと、情動的なものが重視されているように見受けられます。リベラル疲れやポリコレ疲れ、込み入った議論は面倒という風潮に何か打開策はありますか? というのが質問になります。
以前、ゲンロン友の声で東さんは(以下、引用)「ひとの意識を変えるためには、その言葉を包みこむ長大な「文脈」がセットに提示されないといけない」とおっしゃっていました。愛や心や正義や真理や欲望や知といった概念について考えることや議論すること自体、「カッコつけてるだけ」、「ただの綺麗事」と見なされる文脈の方はどうすれば変えられるのでしょうか?(大阪府・20代・男性・非会員)

 質問がなかなか複雑だったのですが、ポリコレ疲れにどう対応するかという問いと理解して答えようと思います。とはいえ、最近のネットではぼくこそがポリコレ疲れの冷笑系の典型だと批判されているので、なかなか答えるのがむずかしい。たぶんこの答えも批判されることでしょう。それでも答えるとすれば、ぼくはむしろ事態を逆に捉えています。質問者の方は、いまは正義や真理について議論することが忌避されていると指摘している。けれども本当にそうでしょうか? むしろいまほど正義や真理が渇望され、ネットで話題になり、街頭で叫ばれているときはないのではないでしょうか? いまこの瞬間ならBlackLivesMatter運動が話題ですし、つい半年前はグレタさん率いる若者の環境運動にみな殺到してましたし、そのさらに半年前は香港デモで大騒ぎでした。だから正義や真理が議論されていないわけではない。問題は「このような」議論でよいのかということです。つまり、いつも同じ人々が、同じスタイルで、昨日は香港、今日は環境、明日は人種問題と正義や真理を求めて渡り歩いていくやりかたが、本当に世界を変えるのかということです。ぼくはむしろ、正義や真理というものは、もっと繊細で、個々の局面でいつも現れ方が異なり、一本調子の主張でまっすぐに実現できるようなものではないと考えます。ぼくはこの回答をたまたま、6万字ほどの原稿を終えた翌日に書いています。その原稿の主題のひとつは原発問題だったので、チェルノブイリについてたくさんの本を読みました。残念ながらその9割以上はまったく原稿に活かされていないのですが、準備とはそういうものです。そして読めば読むほど、30年以上前の事故であるにもかかわらず、なにが正しくてなにが間違っているのか、だれが正しくてだれが間違っているのか、よくわからなくなってくる。むろんシンプルな事実というのはあります。事故の原因がRBMKと呼ばれる特殊な原子炉の設計にあったことや、当日の深夜当直で若い技師が危険な操作をしたことはたしかです。しかし、そこからさらに一歩踏み込んで、では設計ミスはなぜ起きたのか、なぜ危険な操作が行われたかというところに入り込むと、急に簡単な理解ができなくなる。まして、原発は廃止するべきかどうかとなると、複雑すぎてうかつなことはいえません。調べれば調べるほど、こういう見方があるのかと理解の選択肢が増えるばかりで、シンプルな答えにはいっこうにたどりつかないのです。この例にかぎらず、ぼくは現実というのはおしなべてそういうものだと思います。人種問題も環境問題も香港問題も、本当はディテールが積み重なれば積み重なるほど、シンプルな答えを求めることができなくなる問題のはずです。むろん正義や真実は必要です。そして、政治には乱暴に決定する局面も必要です。でもそれは、現実の複雑さを潜り抜けたうえでこそ発する意味がある言葉であり、行う意味がある決定のはずです。だからぼくは、あれもこれもと、文脈関係がなくさまざまな問題に首を突っ込み続ける「リベラル」な「ポリコレ」には、きわめて懐疑的です。彼らには世界の複雑さへの恐れがない。彼らは「とにかく面白ければいい」ならぬ「とにかく正しければいい」という病にかかっている。このように指摘するのはポリコレ疲れでも冷笑でもありません。リアリズムです。(東浩紀)

 

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1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(1998年、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(2001年)、『クォンタム・ファミリーズ』(2009年、第二三回三島由紀夫賞)、『一般意志2・0』(2011年)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(2017年、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(2019年)、『テーマパーク化する地球』(2019年)ほか多数。

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